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マレーシア:トランスジェンダーに対する制度的差別の撤廃を求める報告書(HRW)

2014/09/30

9月25日、HRW(ヒューマンライツ・ウォッチ)は『女でいることが恐ろしい:マレーシアのトランスジェンダーの人びと(I’m Scared to Be a Woman)』とする報告書を発表し、マレーシア政府はトランスジェンダーの人びとに対する差別的な法律を即刻撤廃すべきだと述べました。報告書では、マレーシアの国家宗教局と警察が日常的にトランスジェンダー女性を逮捕し、暴行や脅迫、レイプを含む性的虐待、プライバシー権の侵害など様々な人権侵害を行っていることが明らかとなっています。

HRWは本報告書の作成にあたり、トランスジェンダー女性42人、トランスジェンダー男性3人、HIVアウトリーチ活動家、連邦イスラーム開発局(JAKIM)と政府人権委員会(SUHAKAM)の代表者、国会議員各1人を含む66人に聞き取り調査を行いました。作成に中心的に関わったトランスジェンダー女性のグループは、公表にあたって、記者会見のほか在マレーシアの各国大使館にも政府に差別的法律の見直しを求めるよう要請行動を行っています。

連邦法とシャリア法の二重法体系が採られるマレーシアでは、人口の6割を占めるムスリムにはマレーシア連邦刑法のほかシャリア法が適用されます。マレーシアの全13州でムスリム男性が「女性のような服装やふるまいをすること」が禁じられ、3州では「男性のふりをする女性」が犯罪化されるなど、トランスジェンダー女性への差別が制度化されています。

今回の調査で、国家国民登録局がトランスジェンダー女性の性別変更の申し立てをたびたび却下し、それによりトランスジェンダー女性の逮捕の危険性を高めていることや、警察が国家宗教局と結びつき逮捕に関与している実態も明らかになっています。それだけでなく、トランスジェンダー女性は解雇される、家を追い出される、肉体的・性的暴行を受ける、医療機関の利用を拒否される等、ジェンダー・アイデンティティを理由として公務員や一般の人びとからも被害を受けていることも明らかとなりました。こうした被害申し立てに対し、警察が適切な捜査を行っていないことも問題となっています。

「異性装」を禁じるシャリア法は、表現の自由、移動の自由、平等の権利などを定めた連邦憲法に違反するとして、マレーシアのトランスジェンダー女性からも無効を求める訴訟が起こされています。

●報告書全文のダウンロードはこちらから。
Human Rights Watch(9/25)マレーシア:脅威にさらされるトランスジェンダーの人たち
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