コラム

中国フェミ的見聞録 第13回 (2016年9月『女たちの21世紀』87号掲載)

2016/11/25

大橋 史恵

 2015年の国際女性デーに起きた5人の行動派フェミニストの勾留事件から、早くも1年半。フェミニストへの抑圧は、いまも続いており、2016年2月1日にはNGO「北京衆澤(ヂョンツァー)婦女法律相談サービスセンター(北京众泽妇女法律咨询服务中心)」が閉鎖を強いられました。「衆澤」は、1995年の第4回世界女性会議(北京会議)からまもない時期に立ち上げられたNGO「北京大学法学院女性法律研究サービスセンター(北京大学法学院妇女法律研究与服务中心)」を前身とする組織でした。計20年以上、ジェンダー視点によるリーガルサポートや調査研究を行ってきた老舗NGOの閉鎖のニュースは、中国国内外で大きなショックをもって受け止められました(注1)。

 しかしNGOとしての「衆澤」がなくなった後も、この組織を支えてきた弁護士たちの登録事務所「千千(チエンチエン)弁護士事務所(千千律师事务所)」は活動を継続しています。なんと「衆澤」のウェブサイトも、それまでのコンテンツを残したまま「千千」のウェブサイトとして再出発し、少しずつ更新を続けています(注2)。

 3月8日国際女性デーに更新された内容は、施行されたばかりの「中華人民共和国反家庭暴力法」(反DV法)の問題点を検証するとともに、すみやかに司法解釈の制定を行うよう提言するものでした(注3)。たとえばDVの定義として、この法律の第2条は「家庭の構成員の間で、殴る蹴る・ひもで縛る・怪我をさせる、身体の自由を制限する、日常的に罵る、脅すなどの方法で肉体的・精神的な暴力行為が行われることはすべて、家庭内暴力に属する」としています。これに対して、「千千」はDVには性暴力や経済的コントロールも含まれると明記すべきだと提言しました。これは、1993年の国連決議(女性に対する暴力の撤廃に関する提言)や国外の反DV法制定において議論されてきたことを受けての提言です。

 このほか、共同生活を行うカップルも同法の対象となることを規定する第37条について、同性パートナーも対象になることを認識すべきだと主張しています。DVの事実証明の困難さや、人身保護をめぐる制度の改善必要性などについても具体的な課題を指摘し、適正な司法解釈を発表するように求めています。強い政治的圧力の下でもしなやかに意思を示し行動を続ける、中国のフェミニストたちの逞しさを感じさせます。

 めげないのは法曹界のフェミニストたちだけではありません。行動派のフェミニストやLGBTアクティビストたちによる、路上や公園、大学キャンパス、公共交通機関などでのパフォーマンス・アートや、そのアピールのSNSでの拡散も健在です。

 2016年6月22日、広東外語外貿大学をまもなく卒業する女子学生、黄楊(仮名)は、寮の前で友人たちに囲まれながら、同じく卒業式を控えたガールフレンドの王小宇(仮名)に公開プロポーズをしました。2人が抱き合ってキスするほほえましい写真は祝福の言葉とともにSNSで拡散され、フェミニスト・メディア「新媒体(シンメイティ)女性(ニューシン)」を通じていくつかのニュースサイトにも掲載されました。

 ところがこの報道を知った大学当局は、2人が大学の秩序を乱したととらえたのです。王小宇は、卒業時期のプロポーズは学内では「伝統」といえるほどよくみられる行為で、それまで問題になってこなかったと訴えました。しかし大学の圧力によって「新媒体女性」の報道やレズビアン学生サークルのSNSアカウントは強制削除されました。さらに大学は、彼女の卒業を延期すると脅すとともに、家族にアウティング(本人の了承を得ない暴露)するという卑劣な行動に出たのでした。

 大学の暴挙に反発した行動派フェミニストたちは、「プロポーズに性指向は関係ない 同性も異性も同じ」(求婚不分性取向,同性异性都一样)というメッセージとともに、パフォーマンス・アートへの参加を呼びかけました。この訴えは中国国内外のSNSで広がり、同性の恋人にプロポーズするさまざまな女子学生や男子学生の写真が拡散されました。国際的なLGBT運動の署名サイト“ALLOUT” では広東外語外貿大学に女子学生2人への謝罪を求めるキャンペーンがはじまりました(注4)。残念ながら現在のところ謝罪は実現していませんが、1か月ほどのあいだに集まった7万5千筆以上の署名が広東外語外貿大学の学長に届けられたそうです。

 勾留事件、NGOの閉鎖、SNSの取り締まり、大学による示威的な懲罰など、憂慮すべき事態が続こうが、中国のフェミニストたちは自粛しません。抑圧の間隙を縫うように言葉を発し続け、連帯の手をつなぎ続けています。

注1 「衆澤」は北京大学所轄のNGOとしてスタートした。中国で一般にNGOと呼ばれる組織は、業務主管単位とよばれる上位機関による管轄を受けなければならないことが法で定められているためである。2010年に「衆澤」として再出発したのは北京大学が管轄の継続を拒否したことが原因であり、当時からアクティビズムをめぐる萎縮の兆しはあった。こうした経緯を含めた「衆澤」の沿革や具体的な実践、閉鎖をめぐる中国国内外の反応については、遠山日出也氏によるブログ「中国女性・ジェンダーニュース+」の2月26日のエントリーに詳しくまとめられている。http://genchi.blog52.fc2.com/blog-entry-475.html (2016年8月17日アクセス)
注2 「千千律师事务所」ウェブサイト http://www.woman-legalaid.org.cn/ (2016年8月17日アクセス)
注3 〈关于尽快制定《中华人民共和国反家庭暴力法》司法解释的建议〉(『中華人民共和国反家庭暴力法』の司法解釈を迅速に制定するよう求める提言)http://www.woman-legalaid.org.cn/news_detail/newsId=427.html (2016年8月17日アクセス)

注4 ALL OUT https://go.allout.org/en/a/china-proposal/ (2016年8月17日アクセス)

 

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