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【特別インタビュー】「ママの会」発起人・西郷南海子さんインタビュー

2016/06/30

【『女たちの21世紀』86号掲載 特別インタビュー】

「安保関連法に反対するママの会(以下、ママの会)」をたった一人で立ち上げた西郷さんは、現在、2、5、8歳の子ども3人を育てている。「だれの子どももころさせない」というスローガンは全国に広がり、いまでは47都道府県でママの会が立ち上がった。大学の性暴力事件をきっかけにフェミニズムを学んだという西郷さんは「戸籍を分けるという離婚を経験して家族のかたちは変化したけれど、私がこの子どもたちのママであることは変わらなかった」と話す。夏の選挙を目前に、仕事と育児をしながら社会活動にもパワフルに挑戦する西郷さんにインタビューをした。(インタビューは京大近くのカフェで)

西郷南海子さん20160624

西郷南海子さん

日常の悔しさや、モヤモヤを 込められる言葉としての「ママ」

2015年7月4日、「ママの会」は、安全保障関連法案がいつ強行採決されるかわからないという緊迫した状況のなかで立ち上げました。その日は土曜日で、子どもたちが午後のお昼寝をしていたのを覚えています。
最初から強行採決されることが決まっているなら「審議」なんて茶番で、私たちがいる意味がないと強く感じていました。そこで、まずは1人でも声を上げれば、他にもこの状況をおかしいと共感してくれる人はいるだろうと信じて会を立ち上げたんです。
会の名前に「ママ」を入れた理由は2つあります。1つ目は、私にとって「ママ」は一人称だったということ。子どもたちは、私の鼓膜が破れるんじゃないかという大声で、1日に何十回、何百回と「ママ!」「ママ!」「ママ!」と私を呼ぶんです。そして、私も子どもに対して「ママは片づけてと言ったでしょう」というように、自分自身を「ママ」と呼びます。私にとってすごく身近な一人称が 「ママ」なんです。
もう1つの理由は、「ママ」とは一種の職種だと思っています。賃金は支払われないけれど、ほぼ24 時間、働いているわけです。そんな生活のなかの悔しさやモヤモヤを込められる言葉が「ママ」でした。
ママの会は「だれの子どももころさせない」という合言葉に共感さえしてもらえたら、自由に名乗っていい、としています。誰かの許可は必要ありません。仕事、子育て、家事があっての活動なので、組織として運営していくのは大変です。これまで自然発生的に増えてきました。私もどこにあるのかすべてを把握していないくらいです。

「だれの子どももころさせない」

会を立ち上げた直後の2015年7月26日に「渋谷ジャック」という街宣とデモをやりました。私が思い立って、インターネットで呼びかけたら、すぐにたくさんの仲間が集まったのです。準備のためのチャットで、合言葉を決めようという話になりました。いくつか案が出てきましたが、「だれの子どももころさせない」を見たときに「これしかない!」と思ったんです。
このスローガンは「だれの」という部分が重要だと思っています。 これが入っていないと意味がないのですね。「自分の子どもを守ろう」が「自分の国を守ろう」になり、「じゃあ、核武装だ!」というように、「子ども」だけでは簡単におか しなところに飛んでいってしまうかも知れません。また、「だれの子ども」とは、小さな子どもたちだけを指しているわけではなく、だれかの子どもである大人も含まれます。 戦場に送り出されていく兵士もだ れかの子どもです。そういう意味で「だれの」は欠かせないキーワー ドとなっています。

SNSを活用

ママの会ではSNSが大事な活動ツールとなっています。食事の支度をしながら短くやり取りをしたり、子どもを抱っこしながらニュースをチェックしたり、片手で繋がれることが重要です。よく「授乳中にスマホをやるな」とか「子どもの目を見て授乳しましょう」と言われたりしますが、「おっぱいやっているときぐらい息抜きさせてよ」 「外とも繋がっていたい」と反論し たくなります(笑)。
活動はあえてSNS以外には広げないようにしています。会報をつくったり、事務所を置くとなったらとても大変です。子どもを育てながらできる範囲で活動していくために、最初からやらないことを決めておくのは大事だと思っています。そのなかで言いたいことはしっかり言うという形で活動していきたいんです。

西郷さんデモ20160624

「渋谷ジャック」のデモで戦争法案の廃案を 訴える西郷さんとママの会メンバー

「男の持ち物」という意識

インターネットではママの会に対する誹謗中傷があるのは知っていますが、見ないようにしています。私自身、以前にまとめサイトを作られたことがありました。「子連れでデモをやるのは虐待だ」と書かれていて、あまりにもひどいのでサイト運営側に削除を求めたのですが、削除するには私の身分証明書等を送る必要があるとわかりました。この対応にはとても驚きました。書いた人は好き勝手に匿名で書けるのに、書かれた人は削除のために本人であることを証明しなければならないなんて、おかしいと思います。誹謗中傷を書かれた人ではなく、書いている人が顔を 出すべきです。結局、そのまとめサイトは削除されませんでした。
ママの会へのバッシングは「母親としてどうなんだ」というものが多く、性的な嫌がらせはほとんどありません。それに比べてSEALDsの女性メンバーに対する嫌がらせはひどいですね。彼女たちに対する性的な嫌がらせが、ママの会に来ない理由は、「ママは他の男の持ち物」という意識があるからではないでしょうか。子どものいる女性には「パパ」がいるというイメージですね。「渋谷ジャック」 後に「頭にウジが湧いている」とか 「旦那は何をしているんだ」といった発言をした著名人の方々がいました。ママは性的な存在ではなく、パパが管理する必要があるもの、という意識が見えます。
ママの会のフェイスブックページには、投稿をすると秒速で攻撃的なコメントを書き込んでくる 「常駐」の人たちがいます。「暇だな」と思うと同時に、そういう人が私のことをどこで見ているかわからないと思うと怖くもなります。匿名で誹謗中傷をまき散らす行為は不公平です。女性たちへのバッシングから、この社会の歪みがよくわかります。

常に監視されるママたち

いまの日本のママたちは、いろんなところから監視されていると 感じます。たとえば、子どもの虐待防止キャンペーンなどでは「虐待だと思ったらすぐ通報を」といった呼びかけがされるのですが、 私にはあの呼びかけが「子どもを泣かせたら通報するぞ」という母親に対する脅しのように見えてしまうことがあるのです。本当に困っている人を助けようとしている とは感じられません。実際、子どもが泣いていたら、近所の人に児童相談所へ通報されたママ友がいたのです。子どもがたくさんいる人なので、どうしても声が大きくなってしまうということでした。
「保育園落ちた日本死ね!!!」 ブログが話題になったとき、国会議員へ保育園に関わる政策について署名を提出した女性たちがいました。このことが話題になると、「きれいに化粧をして、高級な抱 っこ紐を使っている母親たちが、 本気で働きたいわけがない」といったバッシングがあったのです。 さらに彼女たちが持っていた赤ちゃん用タオルについて「かわいい 柄のタオルを使っている人は、遊んでいる人。そんな人に子どもを 保育園に入れる資格はない」とまで書かれていました。もし彼女たちが化粧をせずに地味な装いで行ったとすれば、今度は「こいつら 女を捨てている」と書かれるだろうと思います。
すべてを見られ、ジャッジされるんです。人を叩きたくて仕方がない人たちがたくさんいるという ことだと思います。

世の中を変える力があると 伝えること

私はいま、低投票率をどうにか したいと思っています。
先日、京都3区の衆議院補欠選 挙が行われましたが、投票率は3 割でした。有権者の3割とは人口の3割ではありません。投票権のない人はたくさんいます。人口からみると、投票に行く人は圧倒的なマイノリティになっているわけです。ここまで投票率が低くなってしまうと「選挙に行こう」という呼びかけは何も意味していないのではないかという気がしてきます。
政治がワイドショーでしかなくなっている現在、選挙に労力を割くのは馬鹿げていると思っている人は多くいます。投票が締め切られた瞬間に当選確実を伝えるニュース速報が出ますが、私の一票はまだカウントされていないのに「確実」と出てしまう。これでは、行っても行かなくても同じだって感じてしまいますよね。一票なんて軽いんだといわれているようです。
以前、ハタチになって選挙権を渡されてもどうしていいのかわか らないと話してくれた友人がいました。彼が、子どもの頃から「君たちには世の中を変える力がある」 と言われ続けていれば選挙に行こうと思うかも知れないけれど、そういうことはなかったとも言ったことがとても印象に残っています。 「あなたは変えられる」「あなたには力がある」ということを伝えずに、「選挙に行きましょう」と呼びかけられても行くわけがないですよね。
いま、アメリカ大統領選挙の予備選挙に出ているバーニー・サンダースさんが有権者に「あなたが今、ここにいることに価値があるんだ」とスピーチしていました。 とても素晴らしいと思ったんです。自分が存在することの価値を 認める発言ができる政治家は日本にどれほどいるでしょうか。
子連れでデモに行くと「子どもを洗脳している」などと言われることがあります。でも、「世の中がこんな状況になっていて、ママはこれだけは嫌だと思うから声を上げに行くんだよ」という姿を見せることは、子どもの成長にとってプラスの面があると思います。人が悩みながらも行動する姿を見ていなければ、突然、選挙権を手に入れても、どうしたらいいのかわからなくなってしまいますから。
私にとって、子どもを通してつながったママたちとの関係は、とても楽しいものです。このつながりを大事にしながら、これからも活動していきたいと思っています。

(まとめ:濱田すみれ/アジア女性資料センター)

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「女たちの21世紀」No.86【特集】フェミニスト視点で見る選挙の争点

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