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【特別インタビュー】 「戦争したくなくてふるえるデモ」主催者・高塚愛鳥(たかつか・まお)さん

2015/11/27

【『女たちの21世紀』73号掲載 特別インタビュー】

2015年6月26日、北海道・札幌市で、平和安全法制整備法案に反対する「戦争したくなくてふるえるデモ」が行われた。ユニークな名前がつけられたこのデモを主催したのは、高塚愛鳥さん(20歳)だ。「フェミニスト感覚はとても大事」と言う高塚さんに、お話を聞いた。

【国内ニュース】高塚愛鳥さんインタビュー写真

「しゃべっちゃいけない」と思っていた

私が「戦争したくなくてふるえるデモ」を主催することになったきっかけは、関西の若い人たちが開催した「戦争法案」(「平和安全法制整備法案」)反対集会の動画を見たことでした。その動画で「次回の集会は『円山』」という告知がされていて、私はてっきり札幌の「円山」のことだと思っていたんです。近くなので参加するつもりだということを知人に話したら、集会場所は京都の「円山」だったことがわかって、とても残念な気持ちでした。
「札幌でも若い人たちの集会があったらいいのに」と知人に話したところ、「あなたが立ち上げればいいんだよ」と言われました。それまで、私のように知識のない人は「しゃべっちゃいけない」と思っていたので、そんなことを言われて驚きました。でも、その一言が行動を起こすきっかけとなったんです。
私の友人たちの多くは、政治についてよく知りません。この戦争法案に関心のある若い人は、いったいどのくらいいるのだろうと思って、私の不安な気持ちをツイッターに書いてみたんです。そのツイートに対して予想以上に反応がありました。危機感を持っている若い人たちはいるんだ、それなら私も立ち上がろうと決意しました。決意した15分後には友人に電話して、「デモを一緒にやらない?」と話しました。すぐに「いいよ!」と言ってくれて、とても嬉しかったです。

たった9日の準備期間

その次の日にはデモの申請手続きに行ったのですが、そのときの警察の態度が酷くて驚きました。私が「若い女」だから馬鹿にしていたんだと思います。「申請した人数以上になったら歩かせないぞ」と言われたり、少し多めに人数を変えようとしたら、また別の人数に変えさせようとしたり、あまりのことに「態度が悪すぎませんか」と言いましたが、聞く耳を持ちませんでした。
私は申請の際、時間帯と街宣ルートにかなり意味を込めました。若者が通る場所や、キャッチの人、ホストや夜の仕事に行く人に見てもらえるようにしたんです。それに加えて、中学、高校、大学生が放課後、遊びに来る道も選んでいました。ただ、警察には「人数が多くなると、その道は通れない」と言われました。2~3時間粘りましたが、私の話は何も聞いてくれません。「なんもわかんねぇだろ? だから俺たちの言うこと聞いとけ」と言われ、我慢も限界になったので弁護士を呼びました。弁護士が到着すると「はい、わかりました先生、わかりました先生」と、警察の態度がさっきの私へのものとはまったく違うんです。「私たちも同じ内容を話していたのに、弁護士がきたら、『はい、わかりました先生』だって。嫌だわ~」って言ってやりましたが、その時の警察の態度には呆れました。
デモの申請をするだけで、こんなにも体力が必要なんだと驚きました。また、帰り道では一緒に申請に行った友人と「私たちが若い女だから馬鹿にしている。闘っていくしかない」と話したことを覚えています。
デモの初めての打ち合わせには数十人が集まりました。そんなに集まると思っていなかったので、参加した理由を聞いてみると、みんな口々に「ギャルがデモをするって聞いて、面白そうだから来てみた」と言っていました(笑)。私は「この戦争法案が通ったら、どこかで人を殺せるようになる。そんなの絶対に嫌。殺されたくも殺したくもない。次の時代を担うのは私たちなのに、みんなあんまり興味がない。だったら私みたいな人も声を挙げていいと思う。みんなも興味持ってくれたら嬉しいな」と、このデモをするに至った思いを話しました。みんなは「すごいね!」と言って賛同してくれました。
打ち合わせの次の日にはFacebook、Twitter、Instagram、ホームページなど、インターネット上で宣伝できるものはすべて立ち上げました。その日にビラも、次の日には横断幕も作りました。準備期間はたった9日間。みんな毎日、朝6時起きでがんばりました。
そうこうしているうちに北海道新聞からの取材で、大きな記事になりました。インターネットでも広まり、それからは「ギャルがデモをするなんて、面白いネタになりそうだ」と飛びついてきた人が多くいました。最初は、取材にはすべて対応していました。でも、自分たちの目的のために利用しようとする大人がたくさんいたので、今は慎重に選ぶようにしています。

誹謗中傷は「性」に絡めたものばかり

2015年6月26日に行ったデモには、700人が集まりました。当初30人いればいいかなと思っていたのに、すごい人数です。やってよかったと思いました。デモ申請は結局250人で出しなおしていたのですが、それを大きく上回る人数だったので、警察からは「次の日、来い」と言われてしまいました。嫌な思いをしたくなかったので、次の日は弁護士を5人連れて「怒られに」行ったんです(笑)。
デモの後、誹謗中傷がさらに多くなりました。戦争法案に関する私の主張に対する批判だったらいいのですが、ほとんどが「性」に絡めたバッシングばかりなんです。私が「風俗で働いていた」とか「キャバ嬢やっている」とか「浮気相手がどうのこうの」とか、戦争法案にまったく関係のないデマばかりです。なりすましで私のツイッターのアカウントをつくり、私に関するデマをツイートされるという事件もありました。この件に関しては告訴する予定で動いています。おかしいことを「おかしい」と言っているだけなのに、なぜこんなことを言われないといけないのかと、とても辛かったです。現在は、私に誹謗中傷の書き込みなどを見せないように、ネット上のアカウント管理は別の人がやっています。

女性差別は絶対に嫌

私は、女性差別は絶対に嫌だと強く思っています。「女性だから身だしなみはきれいに」なんて大嫌い。「男だから泣くな」という言い方も嫌です。やっと女性が社会に出られる環境になってきたけれど、女性が「見られる対象」であることは昔から変わっていないですよね。社会的な問題に対して発言する女性を見つけると、みんな、すぐに叩きます。日本の政治家に女性がすごく少ないのも、そういう社会を表していると思います。
私は中学・高校と女子校に通っていたのですが、女性たちが自立することを大切にしている、とても良い学校でした。私がフェミニスト感覚を持ち始めたのは、そこでの教育があったからだと思います。私に対する誹謗中傷についても、フェミニストたちがずっと訴えてきた問題であると知っていたので、冷静に客観的に見ることができました。

人を排除する空気をぶち壊したい

私へのバッシングには、「馬鹿が政治を考えるな」「馬鹿そうなヤツがでしゃばるな」「風俗みたいな女は政治のこと考えてないで、将来の心配をしろ」といったものもありました。私は「チャラチャラしている」と見られることが多いですが、私を知っている人たちからは「中身はちゃんとしている」と言われます。でも、初めて会う人に社会問題について話すと、「そんなに真面目なの? いい子ちゃんなの?」と驚かれるんです。日本の社会は、私のような見た目の人や学歴のない人たちを排除していると思います。排除される人たちは自ら興味をなくしているかもしれないけれど、その背後には、そうさせている社会の空気があると思うんです。
私は、そういう空気をぶち壊したくて活動しています。「知識がなくても、戦争は『怖い』『ダメだ』という気持ちだけで立ち上がっていいんだよ」と強調したい。知識も大事ですが、行動をしていれば、自分たちで調べよう、知識をつけようという意欲が湧いてきます。実際、私自身も知識をつけるために勉強会もしていますし、「知識がなくても立ち上がってもいいんだ」というメッセージは常に発信したいです。

「無関心な若者たち」が多い地方で声を挙げる

東京の若い人たちのデモは、本当にレベルが高いですよね。先日初めて参加したのですが、プラカードのデザインとか、コンサートみたいでした。それと比べると、私たちのデモはすごく田舎っぽく見えます。でも私はそれがいいなと思うんです。とても私たちらしいので。
東京のデモでは「『若者が無関心』っていう言葉は聞き飽きた」というスピーチを聞きました。でも、私はそう思わないです。東京では違うのかも知れませんが、札幌は、無関心の若者が本当に多いですから。そんなことを東京から札幌に帰った後にSNSで書いたら、「札幌もそうなんだね、こっちも本当、無関心の人が多いよ」というコメントをたくさんもらいました。無関心な若者が多い地方から声を挙げることは、とても重要だと思います。
「戦争に行きたくない若者は利己主義」というような発言をした政治家がいましたが、あんな人が今の日本の政治家だと思うと、本当に怖いです。「戦争法案に反対している若い人たちは、騙されている」とよく言われますけど、私は、今の政府に騙されないように、がんばっていきます

(まとめ:濱田すみれ/アジア女性資料センター)

「女たちの21世紀」No.83【特集】新たな「移民政策」と女性

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