再び都議による性教育への不当介入か
2018/04/042018年3月に足立区の中学校で行われた性教育の授業について、東京都教育委員会(以下、都教委)が足立区教育委員会に対し「指導」することが朝日新聞(2018年3月23日)の報道により明らかになった。これは、自民党の古賀俊昭東京都議が、3月16日の東京都議会文教委員会で、中学校で行われた「自分の性行動を考える」という授業について「不適切な性教育の指導がされている」などとして質問したことがきっかけとなり、都教委が調査していたというものだ。
この問題について、性教育に取り組む「“人間と性”教育研究協議会」(以下、性教協)は声明を発表した。
声明では、古賀都議に対し、古賀都議自らが敗訴した性教育不当介入事件の「こころとからだの学習裁判」における結果を真摯に受け止めること、都教委に対し、同裁判結果を真摯に受け止め、子どもや若者たちの健康と安全のために不可欠である性教育の推進することを求めている。
「こころとからだの学習裁判」とは、古賀都議、田代博嗣元都議、土屋敬之元都議の3人が、東京都日野市の都立七生養護学校で、知的障害をもつ子どもたちに対して行われていた性教育「こころとからだの学習」について、「過激な性教育が行われている」などとして攻撃し、都教委が当時の校長および教職員に対し厳重注意、配置転換などの処分を行った事件の裁判だ。
七生養護学校の「こころとからだの学習」とは、知的ハンディのある子どもたちが、自分のからだや人との関わりを学ぶ包括的性教育の学習だ。からだの各部位の名称を歌にした「からだうた」を歌ったり、世界23か国の教育や治療の場面で活用されている教材人形を使ったりする性教育の実践で、当時、保護者のみならず校長会からも高い評価を得ていた。
しかし、2003年7月、東京都議会で「こころとからだの学習」が「不適切な性教育」として取り上げられる。同年7月には上記3都議らが都教委や産経新聞記者と共に七生養護学校を「視察」した。「視察」翌日、産経新聞は「過激性教育」「まるでアダルトショップ」などと事実を歪曲して報道している。
その後、都教委は全教員に対して「事情聴取」を行い「調書」を作成したほか、239点もの教材を没収し、同年9月には職員116名の不当処分を強行した。この事件には国会議員や文部科学省も関わっていたことが明らかになっている。
2005年5月には自民党本部で七生養護学校から没収した教材の展示会とシンポジウムが行われた。また同月、自民党に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が発足。このプロジェクトチームの座長は現在の安倍晋三首相であり、事務局長は山谷えり子国会議員だった。
七生養護学校の教員・保護者31名は原告となり、都議による介入、そして都教委による教職員処分は不当だとして「こころとからだの学習」裁判がはじまった。裁判の結果、七生養護学校の教育に不当介入した3都議の行為、そして不当処分を発した都教委の行為は違法であるとして損害賠償を命じる判決が言い渡され、原告側の勝訴が確定している。
このような判決が出ているにも関わらず、今回再び、裁判で敗訴している3都議のうちの1人である古賀都議による性教育への不当介入が疑われかねない事件が起きたのだ。
性教協は声明で、都議の質問撤回、都教委の「指導」の中止、子どもたちを取り巻く現状を踏まえた性教育の推進支援を求めている。
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(以下、性教協の声明)
声明:教育への不当な介入に抗議し、包括的性教育の推進を強く求めます
一般社団法人”人間と性”教育研究協議会(性教協)
◆古賀俊昭都議は、自らが敗訴した「こころとからだの学習裁判」結果を真摯に受けとめるべきです。
◆都教委も裁判結果を真摯に受けとめたうえで、児童・生徒及び若者の健康と安全のために不可欠な性教育が前進するよう、本来の役割を果たすべきです。
2018年3月16日、東京都議会文教委員会において、古賀俊昭都議(自民党)は、ある中学校で行われた人権教育の一環としての「自分の性行動を考える」という授業を取り上げ、「不適切な性教育の指導がされている」、「問題点がある。都教委はどう考えるか」と質問をしました。
東京都教育委員会は、その質問で求められた関係者への「指導」を進めるという答弁を行いました。今回の質問で「問題点がある」とされ、「指導」の対象とされた教育実践は、「自分の性行動を考える」という人権教育の一環としての包括的性教育の授業です。
中学生たちを取り巻く、予期せぬ妊娠、人工妊娠中絶、性感染症等をはじめとした、性に関する深刻な現状を踏まえ、中学校を卒業した後、安全に、幸せに生きていってほしいという願いから、子どもたちの課題と知的要求に誠実に向き合い、学校ぐるみで検討し、実践した授業です。それは、国際的なスタンダード(『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』)を踏まえた「性の権利」としての性の学習を子どもたちに保障するものです。
こうした子どもたちの発達課題に応えようとする優れた性教育実践が、一部の都議、都教委によって「問題視される」ことは、教育内的事項への政治的介入であるばかりか、子どもたちの学習権、子どもたちが将来幸せに生きる権利を侵害する行為に他なりません。
質問の中で古賀都議は、その授業者が作成した「単元設定の理由」を読み上げました。
次のような内容です。
○若年層の性行動を伴う妊娠、人工妊娠中絶、性感染症の拡大などが社会問題となっている。
○全体の人工妊娠中絶の件数は減っているものの、十代の割合が高く、特に中学校を卒業すると急激に増えている現状。
○若者の性行動をあおるような情報が氾濫する一方で、性に関する学習不足から、性交に伴う妊娠や性感染症に関する知識も自覚もないというのが大きな要因。
古賀都議は、読み上げただけですぐに「不適切な性教育の指導がされている」と断じ、都教委に授業の内容を把握しているかを尋ね、さらに「私は問題があると思う。都教委はどう考えるか」と質問しました。
都教委は「区教委と連携して徹底した調査をする。当該校の管理職及び全教員に指導を進める。全都の中学校長会等にも指導をする」等と答弁しました。
いったい、古賀都議が読み上げた「単元設定の理由」に書かれた現状認識は間違っているのかどうか。都議も、都教委も、そのことをこそまず問題とするべきではないでしょうか。
第四次男女共同参画基本計画においては、望まない妊娠や性感染症に関する適切な予防行動について、「思春期の女性に対する取組みとしては、現状を踏まえた具体的かつ実践的な啓発を行うとともに、避妊や性感染症予防について的確な判断ができるよう、相談指導の充実を図る。」となっています。
都民の代表たる政治家であれば、若者たちの深刻な現状について、調査の上で自分の見解を持つべきです。
ただ、古賀氏は何よりもまず、自らが「教育への不当な支配」をしたとして敗訴した七生養護学校のいわゆる「こころとからだの学習裁判」結果(2013年最高裁決定)を真摯に受けとめるべきです。
古賀氏は反省を公に表明しない限り、法令や規範や学校教育について発言することなど、ダブルスタンダードの極みだと言わざるを得ないのではないでしょうか。
都教委も、裁判結果を踏まえず、若者の現状についての見解は一切示さず、人権教育としての性教育を問題視し、もっぱら行政的でしかも統制的な措置についてのみ答弁しています。
私どもは、古賀都議の質問と都教委の答弁には、以下に箇条書きにしたような問題点があると考え、都議と都教委の教育への不当介入に強く抗議するとともに、都議には質問の撤回を、都教委には、「指導」の中止と性教育の推進を求めるものです。
古賀都議の質問は、
① 自身の違法行為(教育に対する不当な支配、教員への侮辱)が認定され、賠償金も支払った2013年の最高裁決定(=高裁判決)を歪め、無視し、虚偽の宣伝をしている点、
② 自身が断罪された「教育への不当な介入」を全く反省していない点、
③ 中高生をはじめとした若者たちの性と健康をめぐる現実の諸問題を無視し、中高生に絶対に必要な内容の学習の実践を事実上阻害している点、
④ 特定の授業に関して、学校名や授業者の実名まで挙げて問題視し、教育の自主性を侵害し、教育実践への威圧・脅迫となっている点、
⑤ 教育委員会に学校への不当な介入と支配を求めている点、
⑥ 私たちの団体(性教協)への誹謗中傷を行っている点、
等の問題があると考えます。
東京都教育委員会の答弁は、
① 最高裁決定(=高裁判決)において、「教育の公正、中立性、自主性を確保するために、教育に携わる教員を『不当な支配』から保護するよう配慮すべき義務を負っている」とされた自らの役割を全く踏まえず、都議の教育介入が当然であるかのように徹底した調査と指導を行うと明言している点、
② 学習指導要領、「性教育の手引き」の片言を法律であるかのようにとらえ、教育実践を問題視している点。これも高裁判決を踏まえていない。
③ 具体的な措置として、
ア、当該校を所管する教育委員会(区教委)と連携し、今回の一連の授業の検証を徹底して行い、改めて課題を整理し、明確にする。
イ、今後、当該校において性に関する指導が適切に行われるよう、管理職及び全教員に教育課程上の課題、発達段階を踏まえた適正な授業のあり方、保護者の理解を得ることの重要性等について指導を進める。
ウ、各市教育委員会の担当指導主事連絡会、中学校長会、都内全公立中学校の保健体育主任連絡会等において、本事例の経緯や問題点、改善の方策等について周知し、都内公立中学校全校において性に関する指導が適切に実施されるよう指導する。
などと述べ、人権教育としての性教育を問題視し、抑圧しようとしている点、
等の問題があると考えます。
都教委の答弁は古賀都議の質問を契機として、中高生をはじめとした若者たちの性と健康をめぐる現実の諸問題を無視し、中高生に絶対に必要な内容の学習をやめるよう学校と教育活動を統制、拘束することに終始している、極めて非教育的で権力的な答弁です。
ア、イ、ウ共に、まったく不要であり、不当な措置です。
以上述べてきたように、私たちは、この事態を受けて、都議と都教委の教育への不当介入に強く抗議するとともに、都議には質問の撤回を、都教委には、「指導」の中止と、子どもたちを取り巻く現状を踏まえた性教育の推進を支援することを求めるものです。
以上
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(ここまで)