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中国:「#米兎」運動と最新フェミ情報

2018/11/30

中国の#米兎運動と最新フェミ情報

花小磨

ハード・キャンディ

「私は実名で北航教授、長江学者(注1)・陳小武が女子学生をセクハラしたことを告発したい」
 2018年1月1日、SNSのWeibo(ウェーボー)で「CiCi小居士」というアカウント名を持つ羅茜茜(Luo Qianqian)さんは、上記のように人目を引くタイトルで、2004~2011年の間で博士課程の副指導・陳小武さんからセクハラを受けたことを告発した。羅茜茜さんが北京航空航天大学で博士後期課程に進学したばかりの時、陳小武が彼女に自分の姉の家のお花を世話してもらうように口説いた。しかし、陳小武さんの姉の家に入ると、陳小武さんはドアをロックして、彼女に性関係を強要した。羅茜茜さんは自分が「処女だから」と言ったら、陳小武はためらってやめた。帰り道で、彼は、今の行動は羅茜茜さんの品格を試すテストだったと言い訳した。
 それから13年後の現在、羅茜茜さんはアメリカのシリコン・バレーで働いている。#MeTooを使ってセクハラを受けたことをSNSで告発するアメリカの運動を見て、羅茜茜さんは他の陳小武によるセクハラ被害者たちと一緒にチャットグループを作って自分たちが受けた被害について話し合った。グループ名の“Hard Candy”は児童性虐待の加害者に対する復讐を描いた映画「ハード・キャンディ」に因んだ。
 2018年1月1日、羅茜茜さんはWeiboでセクハラ被害について長文の告発をしたが、陳小武さんは加害を否認した。そして、羅茜茜さんは被害者たちと彼とのチャット記録を公開した。1月11日、大学はセクハラが事実であることを確認したとの調査結果を発表。陳小武の職務と教師資格は取り消された。中国の文部科学省は今まで発給した長江学者奨励金の返却を要求した。#MeToo運動の波はこの事件をきっかけで中国にも寄せ始めた。
 #MeTooの中国語版タグ「#我也是」も誕生した。しかし、その後、このタグは中国国内のSNS上からすべて削除されてしまう。ネット検閲を回避するために、運動の参加者たちは方言や外国語を使用したりもしたが、最終的には、「me too」という英語発音に似ている中国語「米兎」に落ち着いた。

「Me」の英語発音は中国語の「米」に似る。「Too」の英語発音は中国語の「兎」に似る。「米兎」という組み合わせは中国語の語彙にならないですから、皆に理解してもらいやすいため、誰かが左に表示される絵を描いた。

「Me」の英語発音は中国語の「米」に似る。「Too」の英語発音は中国語の「兎」に似る。「米兎」という組み合わせは中国語の語彙にはない。

フェミニストのアカウントを返せ

 3月8日、「女権之声」(注2)は「国際労働女性デーの最強な過ごし方案内」をWeibo、Wechatで発表した。翌日、「女権之声」WeiboとWechatのアカウントは、どちらも削除されてしまった。 Wechatによると、「最強な過ごし方案内」が違法だという。「女権之声」の支援者たちは、北京、広州、深セン、杭州で「葬式」や「哀悼会」というパフォーマンスをし、「フェミニストのアカウントを返せ」と呼びかけた。4月4日、「女権之声」は新浪、騰迅(Tencent)が理由不明でアカウントを削除することに対して、提訴した。現在にまで裁判所によって受理されていない状態が続いている。「女権之声」アカウント削除事件は連携が強い中国行動派フェミニスト(注3)の発信や世論参加によるメディアの監視・誘導作用に悪影響を及ぼした。「女権之声」のアカウント削除は中国のフェミニズム運動にとって2015年3月のフェミニスト5人拘束事件(注4)、2016年1月のフェミニスト弁護士による法律支援センター閉鎖事件に続く大きな打撃とみられる。

2018年3月16日、アカウント削除後の七日目、北京のフェミニストたちは「女権之声」の葬式を挙げた。北京近郊のある廃墟でカラフルな仮装と黒いサングラスをしているフェミニストたちは踊った。パフォーマンスの名前は「女声他界7日目、墓前で踊る

2018年3月16日、アカウント削除後の七日目、北京のフェミニストたちは「女権之声」の葬式を挙げた。北京近郊のある廃墟でカラフルな仮装と黒いサングラスをしているフェミニストたちは踊った。パフォーマンスの名前は「女声他界7日目、墓前で踊る」

米兎運動の個人化と今後

 中国の米兎運動は、2018年7月までは中国の大学キャンパス内での運動に留まっていたが、7月20日、北京沃啓公益基金会専門家袁天鵬セクハラ、強姦未遂告発事件を皮切りに、NGO、NPOなどの公益界からメディア界、文芸界、スポーツ界、宗教界まで飛び火した(詳細は末尾の表を参照)。なかでも最も注目されているのは中国中央テレビの有名な司会者・朱軍セクハラ告発事件だ。8月14日、朱軍は逆に弦子、麦焼と他の転送者たちを名誉毀損罪で訴えた。法律上のセクハラの定義は未だにないため、民事訴訟は成立できないので、10月に、弦子は朱軍を人格権侵害で提訴した。11月、弦子は『ラベル問題に関する議論の一つ』という文章を発表した。弦子はこの文章で「被害者がフェミニズム運動にひかれて本当に声を上げてセクハラ被害の告発をしたら、非常に大きな困難に陥った。その時、被害者を助ける人はどこにいるか」という疑問を投げつつ、「法律援助は見つからない」、「カウンセリングは人手不足」、「経済援助はまったくない」、「全体的な援助も少ない」という欠点を指摘した。弦子の疑問は米兎運動の告発者が孤独で加害者からの反撃、世論にさらされざるを得ない現状、また中国フェミニズム運動全体の組織的弱体化を浮き彫りにさせたと言える。

弦子はSNSで自撮りした写真をメディアに公開した

弦子はSNSで自撮りした写真をメディアに公開した

 「米兎」は被害者が口を出す瞬間、連帯を求める意味合いを持つにも関わらず、中国では、セクハラ被害についての議論がネットだけ留まり、組織的な行動に移しにくくなっている。政府は団体らしいものを社会の治安を脅かすものと見なしがちである。そして、当局は法治を掲げて理念が異なる国際公益組織の中国への進出を阻害したり、国外の資金を厳重に審査したりするようになった。2017年1月1日から、「境外非政府組織国内活動管理法」が実施されて以降、NGO、NPOなどを代表する公益界には大きな波紋が投げられた。非合法と合法との間に生きてきた民間組織は厳格な審査を受けないといけない。「女権之声」と肩を並ぶ南方のフェミニストメディアも経営がうまくいかず、賃金未払いの問題が発生した。それに加え、政府側や宣伝検閲部門は組織らしいものを狙い、SNSへの検閲を強化し、ネットでのポピュリズムの上昇に手を貸した。
 2017年の「世界ジェンダーギャップ報告』によると、中国は144ヶ国中100位にランクされた。それは2006年、世界ジェンダーギャップ報告が発表されて以降の最低ランクだ。バブル寸前の中国は、土地私有化に関する法的整備、金融緩和政策、再生産労働の個人化などを推し進める一方、ジェンダー平等を求める交渉の空間はさらに縮まり、女性ホームレス、負債を抱える女性たち、妊娠による解雇など、女性の貧困が世代的に継承されていくことは予想できる事態だ。

注1 北航は、北京航空航天大学の略称である。長江学者とは、国際的に影響力を持つ学問領域の先駆者を育成するため、中国の文部科学省によって授与される名誉称号である。
注2 婦女メディアモニターネットワーク(Women’s Media Monitor Network)とは、女性の権利とジェンダー平等を促進することを目指し、メディアを通じて伝えたり、呼びかけたりする北京の民間公益組織である。女権之声は婦女メディアモニターネットワークが2010年5月から現在まで新浪微博(Weibo)で使用するアカウント名である。『女声報』はこの組織が配信するメールマガジンであった。現在、休刊した。特徴:アドボカシー・フェミニズム・ソーシャルメディア。
注3 中国の行動派フェミニストとは、パフォーマンスアート、フラッシュモブなどを公共施設や街で行う若いフェミニストのことを指す。
注4 2015年3月6日・7日に北京・広州・杭州の3つの都市において、5人の若手フェミニスト活動家が、公共バス内の痴漢防止を訴える活動を計画したため警察に拘束された。一人には正式に勾留処分証明書が出され、他の四人は違法に勾留されることになった。拘束されてから36日目、5人の活動家が釈放された。

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もっと詳しく知りたい方は以下の情報を参考してください。

ツイッター@MeTooChina

ブロックチェンという技術で作られた中国セクハラマップ・「毎一片雪花(雪びらの一枚ずつ)」:http://www.mypxh.com

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2017年5月 北京映画学院阿寥沙事件

◆告発者:阿寥沙「偽名」、侯亮平「偽名」

◆ソーシャルメディア:ウェーボー(Weibo)

◆告発内容:大学時代の担当先生の父親から強姦、セクハラを受けた

◆影響:北京映画学院は今までこの事件に対して公に対応しなかった。ある情報によると、大学のウェーボーアカウントは一つのツイットを削除したという。ツイットの内容は「当該学生は中学校時代からうつ病を持ち、大学時代にうつ病で自殺を果たし、胃を洗ったことがあり、他の症状もある可能性もある。この度、学院、学科二つの調査を通して、当該学生が言った状況は存在しないことを確認できたので、デマを打ち消したい」という。

201811日 北京航空航天大学陳小武教授セクハラ告発事件中国の米兎運動の始まり

◆告発者:羅茜茜(実名)と後輩A、B、C、D、E

◆ソーシャルメディア:ウェーボー

◆告発内容:陳小武教授から強姦、セクハラを受けた

◆影響:大学側が告発を受けて調査を行った。1月11日、調査結果発表。大学では、セクハラが事実であることを確認し、陳小武の職務と教師資格の取り消しなど処分した。

2018年1月11日 対外経済貿易大学薛原教授セクハラ告発事件

◆告発者:匿名

◆ソーシャルメディア:知乎(Zhihu)

◆告発内容:薛原教授からセクハラを受けた

◆影響:大学側が調査開始を表明し、結果発表しないまま

2018年月39日 理由不明でウェーボーアカウント「女権之声」が削除(中国フェミニズム運動への打撃)

2018年3月9日 アメリカイリノイ大学徐鋼教授セクハラ告発事件

◆告発者:匿名

◆ソーシャルメディア:知乎(Zhihu)

◆告発内容:徐鋼教授からセクハラを受けた

◆影響:徐鋼が大学教授を辞任

201845日 北京大学沈陽教授セクハラ告発事件(大学側と学生との間対抗関係に)

◆告発者:李悠悠

◆ソーシャルメディア:Douban

◆告発内容:1998年、同級生・高岩が沈陽からセクハラを受けて自殺した。

◆影響:沈陽が所属してきた三つの大学が沈陽に対する処分結果を公表した。

2018年4月11日 中国人民大学顧海兵教授セクハラ告発事件

◆告発者:匿名

◆ソーシャルメディア:知乎

◆告発内容:顧海兵教授からセクハラを受けた。

◆影響:翌日、学生たちが顧海兵のいた教室まで駆け込んで突き詰めた。大学側では、調査開始を表明。

2018年4月15日 中国人民大学張康之教授セクハラ告発事件

◆告発者:匿名

◆ソーシャルメディア:知乎

◆告発内容:張康之教授からセクハラを受けた。

◆影響:大学側では、調査開始を表明。

2018年4月13日 河南大学肖開愚セクハラ告発事件

◆告発者:王東東

◆ソーシャルメディア:ウェーボー

◆告発内容:女子学生たちは肖開愚からセクハラを受けた

◆影響:大学側では、何も反応はなかった。

2018年4月15日 中国人民大学王以培セクハラ告発事件

2018年4月20日 中国石油于大学セクハラ告発事件

2018年6月14日 蘭州大学張文煜セクハラ告発事件

2018620日 甘粛省慶陽市女子高生飛び降り自殺事件(世論をさらに拡大させた

2018年6月28日 山東省臨沂大学鄭明璋セクハラ告発事件

201878日 広東省中山大学張鵬教授セクハラ告発事件(キャンパス内のセクハラ問題はさらに注目を集めた)

2018710日 江西省南昌大学周斌院長強姦告発事件(はじめて大学も民事起訴される事件)

2018年7月20日 北京沃啓公益基金会専門家袁天鵬セクハラ、強姦未遂告発事件

2018723日 民間NGO億友公益の創立者・雷セクハラ、強姦告発事件 (公益界におけるセクハラ問題は注目を集め始めた)

2018年7月23日 民間NGO「達而問自然求知社」馮永峰セクハラ告発事件

2018年7月23日 「無料昼ごはん提供」と「児童誘拐事件絶滅キャンペーン」の提唱者・鄧飛

2018年7月24日 ジャーナリスト・章文セクハラ告発事件

2018年7月24日 同性愛運動の活動家・張錦雄セクハラ告発事件

2018年7月24日 中国刑法学研究会会長、北京師範大学張秉志セクハラ告発事件

2018年7月25日 作家・張弛、雑誌『新週刊』創立者・孫冕強姦告発事件

7月25日 有名知識人・熊培雲セクハラ告発事件

725日 世界自然基金会周非セクハラ告発事件 (告発者が名誉棄損罪で起訴された)

7月26日 『大河報』ジャーナリスト朱長振セクハラ告発事件

7月26日 元バトミントン国家チーム選手劉堅軍、張偉セクハラ告発事件

726日 中国中央テレビの有名な司会者・朱軍セクハラ告発事件 (メディア界におけるセクハラ問題は広範囲な議論を巻き起こした)

告発者:弦子(偽名)、麦焼(偽名)

◆ソーシャルメディア:wechat、weibo

◆告発内容:2014年、弦子は中国中央テレビでインターンしたとき、朱軍からセクハラを受けた。

◆影響:8月14日、朱軍は弦子、麦焼と他の転送者を名誉毀損罪で訴えた。

7月26日 「あなたのために詩を詠む」という芸術フォーラム創立者・潘傑客セクハラ告発事件

7月26日 中国伝播大学謝倫燦教授セクハラ告発事件

7月26日 壱基金合作発展センターの管理者霍慶川セクハラ告発事件

7月27日 専門カウンセラー、地震災害後救済組織「一天公益」理事長・劉猛セクハラ告発事件

7月27日 中国伝播大学元副学長蔡翔強姦告発事件

7月28日 音楽祭企画企業――迷笛会社副総裁セクハラ告発事件

8月1日 浙江省杭州文淵中学校校長・任継長セクハラ・強姦告発事件

82日 北京龍泉寺住職・釈学誠強姦告発事件 (宗教界における米兎運動の爆発)

8月6日 女工のセクハラ調査報告書をネット発表されたため、土逗公社のウェーボーアカウントとヴィーチャットアカウントが削除された。

9月29日 光明日報ジャーナリスト周洪双セクハラ告発事件

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