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裁判員選任手続きにおける性暴力被害者の安全とプライバシーの確保を求める要請

2009/05/19

2009年5月19日

裁判員選任手続きにおける性暴力被害者の安全とプライバシーの確保を求めます

最高裁判所長官 竹崎博允 様

 私たちは、性暴力被害者の権利回復の観点から、5月21日より開始される裁判員制度における性暴力犯罪の取り扱い、とりわけ被害者のプライバシー保護について、重大な懸念を抱くものです。
裁判員が参加する刑事裁判が対象とする事件には、性暴力犯罪である強姦致死傷、強盗強姦、強制わいせつ致死傷、集団強姦致死傷が含まれますが、これらは対象事件の2割以上を占めると予想されています。にもかかわらず、報道によれば、性暴力犯罪事件においても、他の事件と同様に、それぞれの事件で100人にも及ぶ裁判員候補者に対し事件の概要と被害者の氏名が知らされるとのことです。
 裁判員候補者が事件の情報を漏洩することは「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の秘密漏示罪の対象とはならず、漏洩を防止する確実な手段は整備されていません。しかし最高裁判所はこの問題に対する対策の指針を出さず、各地方裁判所に解決をゆだねる方針であると報じられています。これでは、地裁によってまちまちな解決策となり、被害者のプライバシー保護が公平に保障されない可能性が否めません。現在刑事裁判において被害者のプライバシーが保障されていることとも大きく矛盾します。
 性暴力犯罪は他の犯罪と異なり、性・ジェンダーに関わる社会的偏見ゆえに、しばしば被害者の側に責任が転嫁されたり、スティグマが付与されてきました。適切な配慮が行われなければ、裁判プロセスそのものが二次被害を及ぼす場となる危険性があります。こうした性暴力犯罪の特殊な性質が考慮されることなく、他の刑事事件と同様の選任手続きが行われれば、被害者に二次被害発生の不安を呼び起こすだけでなく、二次被害を避けるために、被害にあっても被害届を出さないといった傾向を助長することにもなりかねません。
 一般市民が参加する裁判員制度で性暴力犯罪を取り扱う上では、性・ジェンダー偏見を排除するために十分な配慮を払い、被害者のプライバシーと安全を確保することが必要不可欠です。事件情報の漏洩を確実に防止する措置を講じることなく、拙速に裁判員制度を開始すれば、この制度そのものが、被害者にさらなる加害を招き、性暴力犯罪の訴追と被害者の救済を阻害する原因となりかねません。
被害当事者および支援者との協議のうえ確実な安全保護の措置が講じられるまで、裁判員制度の開始を延期するか、それが困難な場合は、性犯罪に関連する事件について裁判員選任手続きを開始しないよう要請いたします。

申し入れ者 計52団体・844個人(別紙)

代表連絡先 アジア女性資料センター
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町14-10-211
TEL:03-3780-5245 FAX:03-3463-9752

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