アドボカシー・キャンペーン

米軍基地周辺の性暴力

2010/10/10

日本国憲法9条は非戦・非武装を定めているにも関わらず、日本には現在、日米安保条約の下で、米兵とその家族の約9万4千人が駐留しています。米軍基地を抱える地域では、騒音、汚染、事故、そして性暴力を含む駐留米兵による犯罪が、大きな負担となってきました。特に、米軍専用基地の75%が集中する沖縄では、1945年の終戦直後から60年以上も、女性や子どもたちは米兵による性暴力の危険にさらされ続けてきました。日本政府と在日米軍は、事件が起きるたびにくりかえし「再発防止」を約束してきましたが、今日まで性暴力は止むことなく続いています。加害者の多くは処罰を受けておらず、被害者への補償・救済もほとんどなされていません。

不処罰の構造
日米地位協定  日米地位協定は、日米安保条約にともない、在日米軍の地位を定めたもの。事件・事故を起こした米軍人・軍属を訴追から保護するため、日本側の司法権を制限しています。公務中の米兵が起こした事件・事故は、米国側が第一次裁判権を有し、公務外の事件および基地外で起きた事件・事故の場合は、日本側に第一次裁判権があるとされます。しかし原則として、日本側が起訴するまでは基地内にいる容疑者米兵の身柄は米軍が確保し、日本側の捜査、逮捕の権限には制限が課せられます。1995年の沖縄・少女集団強かん事件後、日米当局は、殺人やレイプなどの重大犯罪に限り、日本側の起訴前身柄引き渡し要求に対し、米軍は「好意的配慮」を払うとする、地位協定の運用改善に合意しました。しかし身柄引き渡し要求をしても、拒否されたり時間がかかる場合が多くあります。

米軍犯罪の8割が不起訴 日本で米兵が犯す事件の約76%は「公務外」事件ですが、2001~2008年の公務外の刑法犯平均不起訴率は83%に上っています。うち07年の性犯罪についてみると、「強姦・同致死傷」の起訴率は日本人被疑者で56.1%に対し、米兵被疑者は25.8%。「強制わいせつ・同致死傷」の起訴率は日本人被疑者が57.50%に対し、米兵被疑者の場合は10.5%にすぎません。〔リンク

裁判権放棄密約問題 2008年に、在日米軍による事件のうち「実質的に重要と認められる事件」以外について裁判権の放棄を指示する法務省刑事局の1953年の通達文書の存在が明らかになりました。同通達は今日まで有効とされています。また2009年6月に法務省は同通達に関して、日本では強姦の立証が難しく、不起訴とせざるを得ない場合もあり得るが「米軍側の規律によればきちんと処分がなされる場合も考えられるのではないか」と、裁判権放棄の正当化ととれる答弁を行っています。
・在日米兵犯罪:裁判権放棄を指示(2008-08-10) ・法務省が裁判権放棄に関する資料を非公開に(2008-08-25) ・駐日米兵犯罪裁判権放棄の密約示す文書、効力は今日まで(2008-10-24) ・裁判権放棄密約問題:ダブルスタンダード認める政府答弁(2009-06-25)
日本の刑事司法制度の問題 以下の最近の事例が示すように、駐留米兵による性暴力事件の不処罰の背景には、日米地位協定による司法権制限だけでなく、日本の刑事司法制度において、性暴力が適切に裁かれていないという問題があります。アジア女性資料センターでは、他の団体とともに、性暴力を適切に処罰し防止するための法制度強化を求めて活動しています。〔関連情報へのリンク

ジェーンさん裁判 「ジェーン」さん(仮名)は、2002年4月、神奈川県横須賀基地の近くで米兵によるレイプ被害を受け、さらに、通報を受けた神奈川県警による屈辱的な捜査のために二次被害を受けました。日本の検察も、米軍の軍法会議も加害者を訴追しなかったため、ジェーンさんは2005年に民事訴訟で勝訴判決を勝ち取り、さらに神奈川県警の不適切で屈辱的な捜査によって受けた苦痛に対し、国家賠償請求を起こしました。この裁判は敗訴に終わりましたが、警察による性暴力捜査のあり方に対する重要な問題提起となりました。〔さらに詳しくはこちら。

最近の駐留米兵による性暴力事件
2012年10月 沖縄・集団性暴力事件 2012年10月16日未明、沖縄県中部で帰宅中の女性に米兵2名が性暴力をふるった。2名は集団女性暴行致傷や強盗の罪で訴追され、裁判員裁判でそれぞれ懲役10年と9年の判決を受けた。
・沖縄:米兵2名を集団強姦致傷容疑で逮捕(2012-10-17) ・本日19時~首相官邸前!沖縄の米兵性暴力を許さない緊急抗議アクション(2012-10-17) ・沖縄における米兵性暴力事件への抗議文(2012-10-18) ・「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」が要求書(2012-10-20) ・NHKが誤報を認め訂正(2012-10-25) ・沖縄:集団性暴力2米兵に判決(2013-03-01)
2008年2月 沖縄・少女性暴力事件 2008年2月10日、在沖縄米海兵隊キャンプ・コートニー所属の二等軍曹が、沖縄市内で14歳の女子中学生に「家まで送ってあげる」と声をかけ、バイクで基地外の自宅に連れて行き性交渉を迫ったが断られ、その後「自宅に送る」と車に乗せて性的暴行を行った。
沖縄署は2月11日に加害者を逮捕したが、報道が過熱するなか、2月29日、被害少女が「これ以上関わりたくない」と告訴を取り下げたため、検察は起訴を断念。加害米兵は釈放された。米軍は2008年4月の予備審問で加害米兵を軍法会議にかけることを決定。5月18日、加害者は16歳未満の少女に対する暴力的な性的行為の罪について懲役4年の実刑を受けたが、司法取引により実際の刑期は3年とされた。被害少女に対するバッシングが大きな問題として残った。
・沖縄:海兵隊員を女子中学生レイプ容疑で逮捕(2008-02-12) ・在沖米兵による性暴力事件に抗議し、公正な事件解決と根本的防止策を要求します(2008-02-14) ・米兵の性暴力を終わりにしよう:2/19(火)国会前集会・キャンドルデモにご参加を(2008-02-15) ・自己責任論にNO 女性団体、立ち上がる(2008-02-16) ・国会前キャンドルデモお礼と報告(2008-02-20) ・『週刊新潮』記事に抗議の申し入れを行いました(2008-02-20) ・米軍犯罪再発防止策の骨子(2008-02-22) ・被害少女が告訴取り下げ、米兵を釈放(2008-03-01) ・新潮社より回答がありました(2008-03-06) ・沖縄少女性暴力事件:海兵隊員に懲役4年(2008-05-17)
2008年2月 沖縄・ヘーゼルさん事件 2008年2月20日、フィリピン人女性「ヘーゼル」さんが、大量の出血のために那覇市内のホテルのロビーでぐったりしているところを発見され、病院へ救急搬送された。那覇県警は、米陸軍パトリオット・ミサイル部隊所属の伍長を強姦致傷容疑で逮捕したが、米軍に対する容疑者の身柄引渡し要求はしないまま、4月25日に書類送検。5月15日、那覇地検は「行為の場所や行為の前後の状況、両当事者の関係などの事情を考慮した」として、嫌疑不十分により不起訴を決めた。米軍は2008年10月に予備審問を開き、強かん、売春斡旋、命令不服従等4つの罪状により加害者を軍事法廷にかけることを決定。2009年2月24日の高等軍法会議で、被告は司法取引により強かん罪以外の3つについて罪を認め、禁固6月の刑を受けた。
・また沖縄で米兵がフィリピン女性に暴行(2008-02-21) ・沖縄でのフィリピン人レイプ被害者に正義を!(2008-02-25) ・フィリピン女性に性暴力の在沖米兵に不起訴処分(2008-05-17) ・沖縄:へーゼルさん事件 軍法会議へ(2008-11-30) ・へーゼルさん事件:米軍法会議は性暴力について起訴取り下げ(2009-02-24)
2007年10月 広島・集団性暴力事件 2007年10月14日未明、広島市中区で、岩国基地所属の海兵隊員4人が、イベントで知り合った19歳の女性に対し、車内で集団性暴力を行ったうえ、被害者から現金を奪って事件現場に放置した。広島県警は当初、集団強姦および強盗の容疑で逮捕状をとり起訴前身柄引き渡しを求める方針だったが、「加害者らが合意の上と主張しており、被害者の供述にあいまいな点がある」ことを理由に逮捕状請求を見合わせ、任意の事情聴取に方針変更。11月6日に書類送検したが、11月15日、広島地検は不起訴を決定した。一方、米軍は加害者4人を軍法会議にかけることを決定。軍法会議は2008年5月から6月にかけて岩国基地で行われ、加害者らはそれぞれ12ヶ月~2年間の懲役などの判決を受けたが、司法取引により4人のうち誰も強姦および誘拐で訴追されなかった。
・広島:岩国基地所属海兵隊員による集団レイプ(2007-10-21) ・広島県知事、レイプ被害者の「危機管理」批難(2007-10-22) ・広島県警:米兵の性暴力事件、任意捜査の方針(2007-10-31) ・広島地検、集団強かん米兵を不起訴決定(2007-11-16) ・アジア女性資料センターの不起訴抗議声明(2007/11/21) ・広島性暴力事件:米軍が4米兵を訴追へ(2008-02-16) ・広島性暴力事件:米兵4人を軍法会議で審理(2008-03-07) ・「軍事基地と女性」ネットワークの声明・公開質問状(2008-03-12) ・集団性暴行の岩国基地米兵に懲役2年(2008-05-12)
フィリピン:スービック事件
2005年11月1日、フィリピン・マニラ近郊のスービック元米軍基地で、22歳のフィリピン人女性「ニコール」さん(仮名)が、沖縄基地所属の米兵に車内でレイプされる事件がおきました。アメリカ・フィリピン両政府の圧力と、激しいバッシングに遭いながらも、ニコールさんは強力な女性たちのネットワークに支えられて、フィリピンで初の米兵に対する性暴力裁判を戦い抜き、2006年12月、実行犯の米兵に懲役40年という画期的判決を勝ち取りました。同じ問題をかかえる日本からも支援を届けようと、アジア女性資料センターも参加して裁判支援の会が結成されました。〔詳しくはこちらから

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