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千葉強かん事件最高裁判決に抗議する:ジェンダー偏見に満ちた最高裁の「経験則」こそ見直しを

2011/08/03
千葉強かん事件最高裁判決に抗議する:
ジェンダー偏見に満ちた最高裁の「経験則」こそ見直しを

私たちは、2006年に千葉で起きた強かん事件について、逆転無罪とした2011年7月25日の最高裁判決に強く抗議し、古田祐紀裁判官の少数意見を支持します。

最高裁が被害者のみならず被告人の人権保障の役割を果たすべきことは事実ですが、今回、最高裁が原判決の事実認定に異例の介入を行った理由は、ほぼ全面的に、被害女性の証言の信頼性に対する疑問とされています。しかし、被害女性の証言を「不合理、不自然」として退ける多数意見の「経験則」は、性犯罪研究の知見や、多数の被害者の経験とは一致しません。

多数意見は、被害女性が「ついてこないと殺すぞ」と脅されて被告の後をついていったこと、犯行現場を通りかかった警備員に助けを求めなかったことについて、「物理的に拘束されていたわけでもないのに逃げ出したり」しておらず、「声を出して積極的に助けを求め」てもいないのは「不自然であって容易には信じ難い」と述べ、被害者が性暴力を受けた体勢についても「わずかな抵抗をしさえすれば…拒むことができる」はずだと、被害者の証言の信頼性をことごとく否定しました。

しかし、古田裁判官が指摘しているように、突然攻撃を受けた性犯罪被害者が、恐怖のあまりパニックに陥って抵抗できない場合が少なくないことは、被害者支援の現場や性犯罪研究ではよく知られている事実です。また多数意見は、被害女性の体内に傷や加害者の精液が認められなかったこと、被告人が日頃から多数の女性に対して金銭提供を約束して性行為を求めていたこと等を挙げていますが、古田裁判官が少数意見で述べている通り、これらは被害者の証言の信頼性を損なう十分な理由とはなりません。むしろ多数意見は、被害者が事件直後に泣きながら同僚らに被害を訴えた事実や、被告人の証言も信頼性に欠けることを軽視しており、裁判官の考える「経験則」以外に、被害者の証言を疑うべき客観的根拠を示していません。

「ほんとうに性行為が嫌なら、声をあげて助けを求めたり、抵抗するはずだ」という裁判所の「経験則」こそ、多くの性暴力被害者の経験則を反映していない、ジェンダー偏見にもとづく誤った想定にほかなりません。この判決は、性暴力犯罪の責任を、抵抗できなかった被害者の側に転嫁するような不当な偏見を再強化し、被害者が法的正義を求めることを妨げる懸念があります。

私たちはこの判決につよく抗議するとともに、最新の性犯罪研究や性暴力被害者支援現場の知見をとりいれて、「被害者の反抗を抑圧する程度の暴行脅迫」を要件とする性犯罪の従来の解釈を見直すよう、最高裁に求めます。

2011年8月3日
アジア女性資料センター

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