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裁判員制度問題:その後のご報告

2009/06/24

裁判員制度における性犯罪被害者の安全とプライバシーを守るキャンペーンにご協力くださっているみなさま、その後の報告が遅くなり申し訳ありません。5月21日の裁判員制度開始以降の状況についてお伝えします。

院内意見交換会(6/4)
5月19日に最高裁に要請書と質問状を出しましたが、回答がないまま制度が開始されてしまったため、6月4日、「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」の主催により、超党派議員の出席を得て、衆議院第一議員会館において院内意見交換会を行いました。省庁からは、最高裁のほか、法務省、内閣府男女共同参画局、内閣府犯罪被害者等施策推進室が参加しました。
最初に、性暴力被害を受けた当事者の方や支援者から、二次被害の実態や裁判員制度に対する懸念について発言をいただき、続いて「ネットワーク」のメンバーから、性犯罪については裁判員制度の対象からはずすよう法改正が必要であるとのアピール(文末参照)を行いました。そして、それまでの間、二次被害を防ぐために現行法上で可能と思われる運用上の対策案として、
①可能な範囲で、被害者とできるだけ関係性の少ない管轄の裁判所で裁判を行うこと
②周囲の人に被害を知られたくないという被害者の気持ちに配慮し、裁判員候補から被害者と関わりある地域の住民を予め除外すること
③被害者と関係のある裁判員候補者を排除する方法として、検察官を通して被害者の側に名簿を見せる
④裁判員を選任するまで被害者特定事項を開示せず、選任後に関係者であることが判明した場合には解任する
⑤裁判員に二次被害についてのパンフレットを配布する
という5つの代替案を提示し、最高裁の見解を求めました。

これに対して最高裁刑事局担当課長は、最高裁としてもこの問題を認識し、各地の裁判所と対策を議論してきたと述べ、私たちが提案した代替策については、①②④については困難だが、③は現行法制度内で可能であるとの見解を示されました。そして、候補者に被害者の氏名を出さないとは保証できないが、できるだけその前の段階で候補者を絞り込むようにすることを考えていると説明され、このことを各裁判所にも通知すると話されました。
今回、最高裁の担当部局が、性犯罪被害者の二次被害の深刻さを踏まえて、できるだけの対策を検討したいと、前向きな姿勢を示してくださったことは、率直に歓迎したいと思います。とはいえ、なお具体的な手続きには不明な点が多く、被害者や支援者の不安を払拭するに十分な説明があったとはいえません。私たちは裁判員制度そのものに反対するものではありませんが、性犯罪被害者を保護するための措置や裁判にかかわる人々への教育が十分になされないまま、性犯罪を他の犯罪と同じように裁判員制度で扱うことには、非常に大きな問題があると考えています。今後も議論を継続していきたいと考えています。

質問主意書への政府回答(6/12)
この問題について加賀谷健参議院議員が、6月2日、政府に対し質問主意書を提出してくださいました。これに対する政府回答は6月12日に出されました。「性犯罪被害者に対する配慮の在り方等については、裁判員制度の実施状況や、被害者を始めとする関係各方面の意見を踏まえつつ、今後更に検討してまいりたい」とされており、今後、関係省庁とも議論を行っていきたいと思います。

>>>質問主意書および政府回答のダウンロードはこちらから。

性犯罪を裁判員裁判の対象にすることをやめて下さい-それが性犯罪被害者の強い願いです
(6月4日院内意見交換会 「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」メンバー作成)

性犯罪を裁判員裁判とすることの問題点:

1. 被害者は性被害を知られたくないのです。

刑事裁判の証拠には、事件の生々しい再現、事件直後の被害者の写真、処女膜裂傷の図、被害者の過去の性経験、といった、絶対に人に知られたくないような個人情報が多数含まれています。これらを一般人に見られることに被害者はとても耐えられません。
裁判員と補充員という一般人6人から12人という多くの人に被害を知られることは、強い精神的ダメージを受け、性被害についてできるだけ知られたくないと思っている被害者にとって多大なる苦痛です。「知られる」というだけで強度の不安,恐怖,ひいては絶望感を感じるのです。

2. 裁判員からの二次被害

一般人である裁判員からの質問による二次被害の可能性があります。
「なぜそんな遅い時間に一人で歩いていたの」「助けを求めて声をあげたり、抵抗しなかったんですか」-裁判員が何気なくするであろうこういった質問は被害者の自責の念や罪悪感を助長させる、典型的な二次被害を生むものです。
公の法廷でそのようなことがあれば、被害者はさらに傷付き、言いたいことがあっても、目の前に並ぶ3人の裁判官,6人の裁判員,合計9人もの壇上の人を前にしての圧迫感,恐怖心等を感じ、何も言えなくなってしまいます。

3. 第三者からの二次被害

被害者情報秘匿制度ができ、傍聴人に対しては被害者の情報が守られるようになりました。しかし、守秘義務のない候補者から漏れる場合はもちろん、裁判員の守秘義務に反しない程度の,あいまいな情報でも、それが外部に漏れて被害者が特定されることはあり得ます。
その場合、好奇の目で見られ、噂の対象となり、ひいては全く知らなかった人からスト―キングされる、性的対象とされる、といった二次被害(実際に性被害者から報告されている二次被害です)が起きる可能性があります。

4. 家族やごく親しい人への二次被害

家族等ごく親しい人にも被害を打ち明けられない被害者は多数います。それにもかかわらず、情報が漏れて特定された場合には、家族にも嫌がらせ等の二次被害が及ぶ可能性は十分にあります。大切な人、家族にまで迷惑をかけてしまったことで被害者の自責の念はさらに強まり、自己否定にまでつながりかねません。

5. 埋もれていく被害・性犯罪の助長

こういったことを恐れて,被害届出を出さない,出しても取下げる,といった被害者は必ず出てくるでしょう。そうなれば、加害者への適切な処罰がなされなくなり、性犯罪者の再犯率の高さからすれば,性犯罪の増加につながりかねません。

    H16  H17  H18 H19 H20
対象事件総数  3800 3633  3111 2645 2324
対象性犯罪件数 680 585 570 538 468
比率 17.8 16.1 18.3 20.3 20.1
*最高裁HP参照
*対象性犯罪:強姦致死傷,強制わいせつ致死傷,強盗強姦,集団強姦致死傷
 
このように、裁判員裁判の対象となる性犯罪は、毎年500から600件ほどもあります。
 最高裁はHPで「国民のみなさんが刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司法に対する国民のみなさんの信頼の向上につながることが期待されています。」としていますが,性犯罪被害者は,加害者の適切な処罰は望んでいても,「国民のみなさん」に自身の事件・被害を知られることは望んでいません。
 性犯罪被害者にとって裁判員裁判は,最も知られたくないことが一般人に知られてしまい,情報流出の恐怖に常に脅かされるものであり,すでに司法に対する不信が生まれ始めています。
 性犯罪を裁判員裁判にすることをやめるよう,法律を改正して下さい。性犯罪被害者の切なる願いです。
以上




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