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緊急声明:女性の人権の大幅な後退につながる生活保護「改正」法案の廃案を求めます

2013/06/05

              緊急声明

     女性の人権の大幅な後退につながる

    生活保護「改正」法案の廃案を求めます

5月24日、大阪市で、DV被害から逃れようとして社会的に孤立したとみられる女性と子どもが、生活に困窮した末に死亡していたことが明らかになりました。暴力から自由な人生を子どもとともに生きなおそうとしていた女性が、窓口で相談もしていながら、当然の権利である生活保護を受給できずに生きる道を断たれてしまうという、あってはならないことがこの国で起きています。命をささえる福祉制度の機能不全を目の当たりにしながら、生活保護基準が大幅に切り下げられようとしているうえ、必要としている人々の手から支援をいっそう遠ざけるような生活保護「改正」法案が、十分な審議も経ないまま衆議院を通過したことに、私たちは痛切な悲しみと怒りをもって抗議し、基準切り下げの撤回、「改正」法案の廃案を求めます。

日本における男女間の著しい経済格差は、たびかさなる国際機関の指摘・勧告にもかかわらず、いっこうに縮小されておらず、女性は男性よりも高い貧困化リスクにさらされています。不安定・低賃金の非正規雇用者は女性が7割を占め、女性の平均賃金は男性の約7割、平均年収は男性の約半分に過ぎません。「主な稼ぎ手は男性であり、女性は男性に養われるべきもの」というジェンダー・ステレオタイプは、女性の貧困化リスクを深刻な問題ではないように見せかけてきました。しかし現実には、男性に扶養されていないシングル女性の相対的貧困率は高く、特にシングルマザーでは57%に上ります。生涯賃金の少ない女性は老後も十分な資産や年金受給がないことが多く、単身高齢女性の相対的貧困率は52%に上っています。

労働の場や家庭における女性の弱い立場ゆえに、ジェンダーにもとづく暴力にさらされる女性たちも多数います。配偶者や交際相手からのDV被害について全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談は2011年度で約8万件に上ります。セクシュアル・ハラスメントの相談件数は2011年度で約1万2千件ですが、立場の弱い非正規女性労働者は、被害を訴えることさえできない場合が多々あります。暴力被害によって心身ともに傷つき、社会的繋がりを失いかけ、労働によって十分な収入を得ることができない女性たちにとって、生活保護は、暴力と抑圧から逃れ、尊厳と自由をもって生活をたてなおすための重要な支えのひとつとなってきました。

しかし現状においてすら、生活保護を利用する権利について知らされていない、制度に付随するスティグマのために利用を躊躇している、あるいは「水際作戦」によって利用させてもらえない人たちは多数います。現在審議されている「改正」法案には多くの問題がありますが、とりわけ親族への扶養照会を強化することは、保護申請をためらわせ、DV被害者にとっては、暴力的な元配偶者に発見されるかもしれないという恐怖をかきたてるものです。ストーカー被害を受けて殺害される女性が後を絶たない現状において、その恐怖はたんなる空想上のものではありません。

労働市場における女性差別がいっこうに解消されず、ジェンダーにもとづく暴力被害にあった女性とその子どもたちへの支援策も十分に行われていない一方で、生活保護を利用することに対するスティグマや恐怖が煽り立てられ、保護基準が引き下げられることは、経済的困窮や暴力によって追い詰められた女性たちから、生きのびる希望を奪うことになりかねません。それは、国による女性に対する更なる暴力ともいうべき仕打ちです。このような制度改悪は、次世代への貧困の連鎖をいっそう強化し、「改正」法案とセットで審議されている子どもの貧困対策法案の効果をさまたげることにもなるでしょう。

ジェンダーにもとづく差別と暴力によって生存権を脅かされている女性たちにとって、生活保護は、基本的人権を実現するための不可欠な制度的基盤のひとつです。大阪で死亡した母子をはじめ、すでに多すぎるほどの犠牲者が出ている現状は、必要な人がよりアクセスしやすくするための制度改正こそが求められていることを物語っています。私たちは、大幅な保護基準の切り下げの撤回、生活保護を利用しにくくするような生活保護「改正」法案の廃案を強くもとめます。

2013年6月5日
アジア女性資料センター
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町14-10-211
Tel:03-3780-5245 Fax:03-3463-9752

参考資料

『女たちの21世紀』73号「生活保護」特集
和久井みちるさんインタビュー記事(PDFファイル)

STOP!生活保護基準引き下げ
みわよしこ「生活保護のリアル」

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