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特別公開「女たちの21世紀」No.90【特集】LGBT主流化の影で「特集にあたって」

2017/07/11

「女たちの21世紀」No.90【特集】LGBT主流化の影でに掲載した「特集にあたって」を特別にウェブ公開します。

 

特集にあたって
多様性尊重の内実を問い直すためにNo90hyoshi

 近年、「LGBT」という言葉が主流メディアでもさかんに取り上げられるようになった。いくつかの自治体における同性パートナーシップ制度、私企業によるダイバーシティ制度のあいつぐ導入を軸に、性的マイノリティの可視化が進み、その権利を擁護しようとする動きが注目を集めるようになっている。
 だが他方では、「LGBT」という名のもとに多様な性のあり方が実のところは抹消され、その内実が真摯に問われることもなく、単に「特別な性の人びと」を示すのに用いられているケースが数えきれないほどに生じている。あるいは、主流社会がいかに男女二元論と異性愛中心主義によって成り立っているのか―それがどのような特定の人びとを差別や暴力や排除の対象とし、生きがたさをもたらしているのかが問われぬまま、あまりにも一面的で不十分な理解が横行している状態とも言えるだろう。
 また特に近年の動きについては、カップルであること、企業で働くことのできるリソースをもっていることを前提にしたものであり、国力や経済力の成長のために性的マイノリティなり性の多様性なりを「活用」しようとするものであることにも注意が必要だ。支配的な性の体制を積極的に、かつ徹底的に問い直す作業をしない限り、差別や暴力に対抗するための主張や方策は、単に浅薄で場当たり的なものにとどまるばかりか、結果として格差の拡大に加担するものとなってしまう。
 加えて、性的マイノリティのことは性的マイノリティのこと/フェミニズムのことはフェミニズムのこと、といった切り分けがしばしば起きていることにも注意したい。性的マイノリティをとりまく問題を考えるにあたっては、フェミニズムが性や身体をめぐる制度について考え、鍛え上げてきた視点は必要不可欠なものである。だが一方では、フェミニズムが異性愛者で健常者でシスジェンダーの女性を中心に議論を進めてきた側面があることも否めない。さらにその他方では、性的マイノリティについて考えるにあたって、性差別を批判する視座が不十分なこともある。このいわば分断とも言える状況が何によってもたらされているのかを、いまいちど見きわめなくてはならない。
 この特集は「LGBT」への取り組みや可視化が進む状況にひそむ陥穽とは何であるのかを考えることを目的として企画された。表層的な「性の多様性」の主張が、実は多様な性/生を踏みつぶしているという状況を変える言葉が今こそ必要なのであり、そしてそのための言葉がここに紡がれている。生きがたさの正体を見定めること、敵を同じくする者を見つけること、自らの特権性に気づくこと、それを踏まえた議論と対話を深めていくこと―限られた紙幅のなかで「LGBT」にまつわる/をとりまくすべての問題を扱うことはかなわなかったものの、この特集がそのための出発点となることを編者の一人として期待すると同時に、この社会を生きる者の一人として、そのための言葉を練り上げてきた人びとと時代を同じくしていることに少なからぬ希望を見出している。そして今日も明日もこのことを言い続けたい――わたし(たち)の性/生の搾取は許さない、と。

佐々木裕子(責任編集/東京大学大学院博士課程)

「女たちの21世紀」No.90【特集】LGBT主流化の影でより)

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