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労働者派遣法改正に向けたアジア女性資料センター(AJWRC)・働く女性の全国センター(ACW2)共同意見書

2008/10/28

                       2008年10月28日
厚生労働大臣 殿
衆議院議員 各位
参議院議員 各位

労働者派遣法改正に向けた意見書
 10月24日、厚生労働大臣から労働者派遣法改正に関する法律案要綱が提出されました。しかし、この要綱は女性労働者を保護する観点から見て、きわめて不十分なものと言わざるをえません。舛添厚生労働大臣は、秋葉原の無差別殺人事件の犯人が製造現場の派遣労働者であったことから、派遣法の規制緩和の行き過ぎを正し,見直すと発言していました。しかし法案要綱では、私たちが望んだ労働者保護の視点が大きく後退し,逆に,派遣労働による正社員の代替化を一層促進しかねない内容となっています。女性は派遣労働者全体の62%(99万8200人 2007年総務省)を占めており、セクシュァルハラスメントや妊娠・出産を理由とした解雇も多くみられますが、相談窓口がほとんど機能していないうえに二次被害も多く、泣き寝入りを強いられる女性は少なくありません。今回の要綱では、こうした女性派遣に特有の問題がまったく検討されていません。女性は夫に養ってもらうものとする性別役割意識のために、女性の派遣労働者が直面する問題は、これまできちんと取り組まれてきませんでした。その結果、派遣法の成立から20年の間に、労働条件の劣化は男性にも及んできています。
 私たちは女性労働の視点にたって派遣法の問題を考えるために、10月11日にシンポジウム「女が語るハケン労働」を開催しました。この集会の議論を踏まえて、以下の通り意見書を提出します。

               記

1.法改正全体に向けた意見

派遣は、一時的、臨時的な仕事で、かつ限定した業務に限るべきです。

2、日雇い派遣の迅速な改善について

A)専門26業務はもちろん、医療、福祉業務にも、労働者保護の視点での規制が必要です。

今回の「改正法案要綱」では日雇い派遣は原則禁止とされましたが,専門18業務は、禁止の対象外とされました。18業務の大半は,専門26業務のうちでも女性割合が極めて高い業務です。これについて意見を述べます。

 建議では、18業務が「労働者保護に問題のない業務」とされてリスト化されていますが、実態を見る限り,労働者保護に問題がないとは決して言えません。18業務をポジティブリスト化して,日雇派遣を認めることは、女性の日雇派遣の促進と常態化及び正社員の代替化の促進という危険性をはらんでいます。
 労働者保護どころか、いっそう雇用の劣化を促進させる18業務の日雇い派遣許可に反対します。

 派遣法の制定は男女雇用機会均等法制定と同じ年の1985年に行われました。この当時は、女性の正社員の賃金は男性の半分以下と低く、家族責任を果たすために効率の良い働き方として、時給の高い派遣を選んだ女性は多くいました。制定当時、正社員の代替防止のために、派遣労働は専門13業務の高度に専門性のある業務に限定して解禁するというものでした。 
 ところが99年の大改正で派遣業務が原則自由化され、2003年には派遣期間も延長し(1年から3年)さらに製造業務へ拡大しました。20年の歳月の中で、女性の仕事が次々と派遣労働やパート労働に代えられました。IT技術の発展などもあって、派遣法施行当時専門的といわれた仕事の多くは、一般事務の多くの女性たちにもできる仕事になり、安上がりの派遣労働者を活用しようという企業の意向によって派遣に置き換えられました。
 現在では、金融・保険業、医療、福祉という業種で女性の派遣が多く、そのほかの業種でも,女性の派遣労働が正社員に取って代わっています。金融業では、かつて、一般職や総合職がやっていた窓口業務や渉外業務が成約直前まで派遣が担うようになってきています。
 さらに派遣が管理職的業務を行っているところもあり、正社員並みの長時間労働を強いられた上に、重い責任まで負わされています。
 また、医療、福祉現場では、利用者の状況を十分知り、きめ細やかな仕事をすることが求められていますが、命にかかわるような現場においてさえ、日雇い派遣という形でヘルパーや看護師が投入されています。日雇いという不安定な働き方のため、従業員の連携不足が原因となって,医療過誤も発生しています。また、公立学校の修学旅行の添乗員として日雇派遣されている看護師がいますが,実際は24時間勤務であるにもかかわらず,8時間労働として派遣されているため,時間換算したら最低賃金を割っているという実態があります。
 派遣は、民間ばかりではなく国立の施設が独立行政法人化した事に伴い、以前は国家公務員がやっていた仕事を派遣労働者に代替させている実態が多くあります。
 共通の問題として,派遣労働者の多くに交通費が支給されていないということがあります。
 専門26業務は、1ヶ月契約の更新が増えており、派遣労働者の多くは,契約更新のたびに契約が切られるのではないかという不安を抱えています。実際、雇い止めを多く経験し、このような不安定な状況が原因で精神的なケアが必要な派遣労働者も増えています。

B)日雇い派遣には、仕事につけなかった日の雇用保険の義務化を

 日雇い業務は、時給や、日給のため、仕事がなければ、生活保護以下の月収となります。仮に正社員の仕事があったとしても、次の給料日まで生活できないという状況の中で,日雇い派遣を続けることを選ぶしかないという現実があります。今年施行された日雇派遣指針は,派遣労働者の申請が必要であるなど,労働者保護の観点から言えば,不十分です。
 かつて、山谷などの労働者に適用されていた、仕事に就けなかった日の生活費を保障する日雇い雇用保険の日雇い派遣業への義務化が必要ではないかと考えます。
 また、日雇いの製造業派遣については、男性ばかりか女性も多くなっており、アパートに入居する金銭的ゆとりもなく寮に入居したところ、寮とは名ばかりで、ワンルームマンションにまったく知らない人と2人で生活させられたり、3Kに5,6人で暮らすようになっていて、入れ替わりも激しく、知らないうちにルームメイトが変わっていたなど、人間らしい生活とは言えない状況があり、あまりの精神的負担の大きさで生理が止まってしまったという報告もあります。

3、登録型派遣の禁止に向けて

現在、登録型派遣は、正社員の代替として多く機能させられています。正社員の代替は阻止するという派遣法制定当時の精神に立ち返り、今こそ登録型派遣は,禁止すべきです。
 専門26業務をみると、事務機器操作、ファイリング、財務経理、秘書、受付、案内、貿易取引文書作成、調査、通訳・翻訳・速記などでは、ほとんどが女性の多い業務です。派遣の事務職の97%が女性であるという人材派遣協会の調査結果もあります。
 日給を比較しても、全体の平均が10,571円(8H)に対して、女性の多い事務機器操作やファイリングなどは、すべて、この平均日給を下回っています。つまり、女性の正社員がやってきた仕事が女性の派遣労働者に置き換えられているのが現状です。
 今回の建議では、女性が派遣労働者全体の62%(99万8200人 2007年総務省)を占めているにもかかわらず、派遣労働問題の大きな部分が女性労働問題であることを前提とした検討がなされていません。2003年以降、製造業に派遣が自由化されたために男性派遣労働者が増大し、日雇い派遣などワーキングプアが社会問題化されてきましたが、派遣労働はそもそも女性の分野でした。97年の労働省調査では派遣の88.6%が女性労働者です。また同年の26業務中の女性の割合は、事務機器操作(95.9%)、ファイリング(99.0%)、財務処理(100%)とすべてと言っていいほど女性の仕事として位置づけられており、性別職務分離は明白でした。 
 そのため、派遣労働の賃金は年々ダンピングされてきたのです。当時派遣労働が社会問題として浮上しなかった理由は、「女性の仕事は補助、女性は貧困で当たり前」と見なされてきたことです。女性は自立せず扶養されるものとする性別役割意識と「女性の労働権」の無視がここでも反映されています。
 女性派遣労働問題について、きちんとした取り組みがなされなければ、労働条件の劣化が男性にも影響が及ぶことは、派遣法20年間の中で、明らかにされたのではないでしょうか。

4、期間の定めのない雇用契約の事前面接解禁、雇用申し込み義務の対象外について

 期間の定めのない雇用契約の事前面接解禁について、

 現行法でも、職場見学などと称して派遣先の違法な事前面接がすでに横行しており、雇用関係のない派遣先によって解雇が堂々と行われています。派遣元と雇用契約を締結するのに、その上さらに派遣先と事前面接すること自体が、派遣元が雇用するという理由で許可されているはずの派遣法の形骸化に他なりません。派遣元の雇用契約を結ぶ際に、派遣先の条件についてもきちんとして雇用契約を交わすべきです。事前面接の解禁は、労働者をより商品化するものです。派遣先での事前面接は使用者を利するだけで、労働者保護に反し、断固反対します。
 また、事前面接の禁止を実効性あるものにするために、事前面接などの違法な派遣を行った場合は派遣先が直接雇用することを義務づけるなど、派遣先の責任を重くすべきです。

 期間の定めのない雇用契約の雇用申し込み義務の対象外について

 現行法でも雇用申し込義務がある、3年以上働いていた長期勤務の派遣社員が解雇されています。期間の定めのない派遣がいること自体、正社員代替になっていることを認めるものであり、期間の定めのない派遣社員は正社員として直接雇用すべきです。
 雇用申込義務の対象外とすることは,派遣労働を規制せよとの世論に逆らい,派遣労働の正社員代替化をいっそう押し進める措置であり反対です。

5、期間の定めのない派遣についての概念の明確化について

 期間の定めのない派遣労働が、どのような派遣で、どのくらい存在しているか明らかにすべきです。
 この建議の中で出されている「期間の定めのない雇用」の概念が、あいまいです。有期でも4ヶ月以上雇用しているものを「常用」というなどの職業安定所の内部規定があります。これは登録型派遣と同じような経済効果をあげながら「常用型」を偽装するものといえるのではないでしょうか。このような不安定な労働実態を改善するためにも、有期雇用を反復更新する場合には「期間の定め」を無効とする措置をとるべきです。

以上

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