【COVID-19とジェンダー】パンデミックはジェンダー中立的ではない
2020/04/21COVID-19とジェンダー 翻訳記事
以下は国連軍縮研究所からの声明の全訳です。
レンカ・フィリポヴァ、レナータ・H・ダラクヴァ、ジェームズ・レヴィル
2020年4月15日
コロナウイルスによって、世界はここ数十年の中でも過去最大規模の世界的危機に直面している。このような中で、ジェンダーというのはもしかしたら世間の人々の関心の的ではないかもしれない。しかし実は、ジェンダーの存在を無視するべきではない。というのも、パンデミック(世界的大流行)はジェンダー中立的ではなく、ジェンダーに充分配慮した上での対応策は、感染性のある病気が突発的に発生した際の取り組みをより改善させることができるからだ。
コロナウイルスを抑制するために世界中の多くの場所で実施されている対策というのは、これまでに前例がないものである。その対策の中には、多くの国々で実施されている学校や保育施設の閉鎖、事業活動の停止、旅行の規制、自己隔離、検疫なども含まれている。実は、これらの対策というのは、女性と男性、女子と男子に対して、それぞれ異なる形で影響を与えることになるだろう。そのため、政府はこれらの違いを念頭にいれて、コロナウイルスの対応戦略を練るべきなのである。そうすることで、パンデミックへの耐性を強め、回復を促進する手助けに繋がるだろう。
2019年の調査報告書において、生物学的脅威と安全保障(バイオセキュリティ)の危機的状況に対しジェンダーというレンズを通して見ることで、重大で深刻な事態に国が備え、その事態から迅速に回復するのを手助けすることができると私たちは主張した。私たちの論文は、生物学的兵器のジェンダー化された影響に焦点を当てていたのだが、コロナウイルスが生物学的兵器であるということを示唆する信用性のある証拠は見つからなかった。しかし、その研究の一部として、過去に発生したエボラウイルスや、SARS、その他の感染症の突発的発生について分析を行うことで、それらの病気のジェンダー化された影響をより深く理解することができた。コロナウイルスの感染拡大に取り組むためには、これらの研究で明らかになったことを再考する価値があるだろう。
いかにジェンダー規範が社会の構造に根差しているかについて理解することは、感染接触において男性と女性、男子と女子との間に異なるパターンがあることを明らかにしてくれる。例えば、世界の多くの場において、女性は家庭と仕事場の両方で主にケアに関わる仕事に従事しており、グローバル労働市場の中で看護と助産師の80%以上は女性が占めている。これはつまり、女性は病原菌に感染接触するより大きなリスクに晒されている可能性があるということである。このことは、2014から2016年の間に西アフリカで発生したエボラの大流行においても明らかなことである。そこでは、多くの場合、女性は主に埋葬や病人の看護などにあたっていた。この傾向は、ギニアやリベリアといった国々において、女性のエボラ罹患者の不均衡なほどの数の多さを一部説明することができる。
また、情報へのアクセスの不均衡さによって、接触感染のパターンにおけるジェンダー差が生み出されているともいえる。エボラに関する研究が示唆していることは、一部の文化において公教育を受ける機会の違いが、この死に至らしめる病気の拡大の原因の1つになっている。つまり、エボラへの対応策が検討されている集まりなどにおいて、女性の存在が排除されているのである。このことは、感染性のある病気に感染接触する可能性が最も高い人々が、感染リスクを最小限にする重要な行動についての情報にアクセスすることが出来ないという状況を生み出している。この課題を解決するには、文化的要因、特にケアに関わる仕事に従事しているような主要な人々に、健康に関するメッセージを届けるのを阻害しているジェンダー化されたコミュニケーションの在り方を乗り越える手段を考える必要がある。
私たちの発見は、様々な文化を超えて医療への関わり方のジェンダー化されたパターンに着目した、広範囲な研究たちによって証拠づけられている。医療への関わり方というのは、社会の各レベルに分配されている権力と資源といった様々な要因に影響を受けているのである。病気に罹患するという明らかに目に見えたスティグマは、過小評価されてはいるがある社会においては、それももう1つのジェンダー化された要因となっている。例えば、「南アジアやアフリカ、ベトナムといった国々における結核の事例が証拠として示唆しているのは、スティグマ化の可能性は男性以上に女性が助けを求める行動に影響を及ぼし、感染や社会的孤立への恐怖と関連があるということである」。コロナウイルスに関する最近の論文が明確に示していることは、スティグマの烙印を押されることへの恐怖によって、人々が医療的支援を求めなくなり、感染したこと自体を報告しなくなってしまうということである。そして、このことは次に、病気の罹患者への監視や対処療法といった処置にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、スティグマと戦い、それを最小限化する方法を、特に公衆衛生に関するメッセージを届けることで、考える必要があることなのである。
感染症の突発的発生は、それ自体深刻な心理的影響を及ぼすことがある。それは、コロナウイルスとて例外ではない。例えば、エボラに関するとある研究は、「個人・コミュニティ・国家間のレベルで、かなり深刻な心理社会的な影響を及ぼしたことを指摘している」。中東呼吸器症候群(MERS)、これはコロナウイルスやSARSと同じ系統の病気なのだが、この病気が及ぼす長期間の影響に関する研究が明らかにしていることは、MERSに罹患したことがある人は、たとえ回復した後であっても、かなり深刻な精神的影響を受ける可能性が高いということである。つまり、MERSに罹患し、回復した人々のおおよそ3分の2は、外傷後ストレスや、睡眠障害、不安や絶望を感じるといったことなどを含めて重大な精神的問題に悩まされているのである。心的外傷後ストレス障害 (PTSD)は、女性と男性、男子と女子ともに影響を及ぼすものであるが、その影響の仕方は必ずしも均一にというわけではない。つまり、対処療法に対するジェンダー間の差異をきちんと踏まえて対応することが、長期的な目で見て、社会が回復することに役立つのである。
各国がコロナウイルスへの対応に奮闘していくにつれ、地域や国のレベルでもコロナウイルスの対応の最前線に立つことが多い女性の声を組み入れ、ジェンダーを考慮した戦略を立てていくことが重要になってくるだろう。ここで明らかになるであろうことは、ジェンダー分析というのは非常事態においても余剰なことではないということである。それは、感染症拡大を減らし、人々を適切に扱い、迅速に回復させるために適切な課題に焦点をあて、適切な疑問をなげかけてくれるだろう。
公衆衛生の緊急事態にジェンダーのレンズをあてはめることは、例えば以下のような疑問に取り組むことに関わってくるだろう。
・提案されている政策の文脈において、女性と男性間で異なるニーズや優先上位はなにか?
・既に実施されている政策の文脈において、女性と男性はどのような役割を課せられているのか?
・どのような資源(経済、財政、物質、生得的、その他の財産)と情報に、女性と男性はアクセスしているのか?
・提案されている政策によって強化される既存のジェンダー不平等はあるか?
・政策立案と意思決定に対して、女性と男性は平等に関与し、影響を及ぼしているか?
・政策が提供しているサービスとテクノロジーは、女性と男性の両方が利用でき、アクセス可能なものか?
・特定の集団(例えば、子どものいる家庭や、障がい、老人と暮らす人など)のニーズを踏まえた追加政策は用意されているのか?
・関連性のある性別ごとのデータや統計を集計し、追跡し、公開する制度は整っているか?
政府は、公衆衛生の体制において既に主流化しているジェンダーを越えて、女性、男性、男子、女子の間の感染症による影響の差異に関する研究もサポートしていくべきである。今まで、感染症の流行に関する研究は、ジェンダーの視点を大きく欠いていた。例えば、2015年1月から2016年の5月の間に出版された600以上のジカウイルスの流行についての文献が明らかにしたことは、たった1つの研究しかジェンダーという単語をその研究のキーワードの中に含んでいなかったということである。感染症流行のジェンダー化された切り口で収集したデータを精査しより科学的な研究を進めることは、女性と男性のニーズとその現実を明らかにし、ジェンダーに対応した公衆衛生の政策の基礎を築きあげてくれるだろう。
翻訳:戸室
原文はこちらから
“Pandemics Are Not Gender-Neutral, Gender Analysis Can Improve Response To Disease Outbreaks”