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家父長制権力構造を温存する「ジェンダー平等な」解決策を拒否し、東京オリンピック・パラリンピックの即時中止を求める声明

2021/02/22
アジア女性資料センターは、2021年2月、森喜朗氏による性差別発言およびその後の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会、日本政府、IOCによる対応を受け、『家父長制権力構造を温存する「ジェンダー平等な」解決策を拒否し、東京オリンピック・パラリンピックの即時中止を求める声明』を発表しました。

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は2月18日、性差別発言を批判され辞任した森喜朗氏の後任に、橋本聖子氏を選出した。日本政府および国際オリンピック委員会(IOC)も即座に歓迎を表明し、あたかもこれでオリンピック開催に向けた障害はすべて解決されたかのように急いで幕引きを図ろうとしている。

 

「女性は話が長い」という森発言の本質は、女性を一般化する差別的偏見という以上に、「組織委の女性はわきまえておられる」という言葉が示すように、有力者の意に対し敢えて異論を唱える存在を「話の長い女」として揶揄し黙らせようとする点にある。透明で民主的ルールに基づく意思決定を回避し、同質的な権力者間の合意によってことを運ぼうとする組織委・日本政府・IOCのやり方は、当初は森氏の発言を容認し、後に密室で後任を選出した時まで一貫して変わっていない。女性を会長に据えることは、むしろこの非民主的な家父長的権力を維持するために考え出された危機管理のための弥縫策にすぎない。このようなまやかしの「ジェンダー平等な」解決を、わたしたちは断固として拒否する。

 

また、橋本氏の会長就任がジェンダー平等の象徴とされる一方で、氏によるセクシュアル・ハラスメントが不問に付されようとしていることは見過ごせない問題である。被害者・加害者の性別にかかわらず、異議を申し立てることを困難にさせるような一定の権力関係の下で行われる望まない性的接触の暴力性が明確に認識されなければならない。にもかかわらず、橋本氏による加害行為があたかも大した問題ではないかのように扱われることは、被害者が訴え出ることをいっそう困難にし、スポーツ界における性暴力防止の取り組みを後退させかねない。

 

森発言およびその後の組織委・日本政府・IOCの対応は、ジェンダー平等やダイバーシティという理想を掲げながら推進されるオリンピックそのものの構造的暴力を明らかにしている。そもそも東京五輪は、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響をすでに終わったこととして被害者の声を沈黙させることから始まった。そしてこの間、「震災からの復興」や「共生」といった理念は、ホームレスの排除、公営住宅住民を立ち退かせる大規模開発、環境破壊、不透明な金銭取引、ナショナリズム教育、警察権力の増大を正当化するために用いられてきた。リオデジャネイロや平昌など世界各地における経験は、オリンピックがこれまでもさまざまな差別や暴力と不可分だったことを明らかにしている。

さらに、日本と世界の人びと、とりわけ経済的社会的に最も周辺化された人びとは、今まさに歪んだ経済開発がもたらしてきた健康と生存の危機に直面している。コロナ禍から人びとの命を平等に守るために使うべき公的資金を、これ以上、空疎な平等の約束を掲げる大規模イベントのために不透明なやりかたで浪費することは許されない。そのしわ寄せを最も受けるのは、安定した仕事や地位、財産に守られていない人びと、不安定・低賃金または無償で命を支えるケア労働を担っている人びとであり、その多くが女性である。東京オリンピック・パラリンピックは即座に中止すべきである。そしてわたしたちは、真の意味での平等で公正な暴力のない社会に向けて、息の長い取り組みを着実に進めていかなければならない。

 

NPO法人アジア女性資料センター

2021年2月22日

 

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