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岩手日報が24条改悪を主張する「論説」掲載

2006/06/17

5 月22日の岩手日報に、憲法第24条は「良俗秩序」に反するので削除し「家族」を復元させるべき、という主旨の「論説」が掲載されました。あいかわらずの「フェミニズム=海外勢力の陰謀」「日本国憲法=GHQによる押し付け」論にもとづく粗雑な改憲論がいまだに根強いことを示しています。
http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2006/m05/r0522.htm

アジア女性資料センターも参加する「STOP!憲法24条改悪キャンペーン」では、以下の抗議文を岩手日報に送付しました。

岩手日報「論説」の24条廃止論に抗議する
http://blog.livedoor.jp/savearticle24/

 自民党が2004年6月にうちだした憲法24条見直し論は、多くの批判を浴びて、表向きは改憲議論から姿を消しています。しかし岩手日報が2006年5月 22日に掲載した前田邦夫氏による「論説」は、家父長主義的な家族観に基づく24条改憲論がいまだに力を失っていないことを明らかにしています。24条の見直しをふたたび改憲課題に含めて「家族の復元」をはかるよう主張する前田氏の「論説」は、以下に指摘するように、男女間の不平等に関する歴史的認識を欠き、また、論理的根拠なく24条を「良俗秩序」の崩壊の原因とするきわめて粗雑な議論であり、その背景には、男女平等と個人の尊厳に反する家族観があります。このような主張を「論説」として掲載した岩手日報のメディアとしての無責任は見過ごすことができません。

(1) 女性差別に関する歴史認識の欠如

 前田氏の「論説」は、憲法24条が両性の「合意のみ」に基づく婚姻や、離婚における夫婦の平等な権利を「ことさら強調しているのは異常」として、「背景にはGHQの専制権力を利用した米国フェミニストによる容喙があった」と、あいかわらず「フェミニズム=海外勢力の陰謀」「日本国憲法=GHQによる押し付け」論を展開しています。さらに「男女同権や両性の合意などは理の当然」であって「日本にはない」というのは「わい曲」だと述べています。
おそらく前田氏は、明治憲法下の日本では、男女同権や両性の合意にもとづく婚姻は「理の当然」とされていなかったという歴史的事実をご存知ないか、意図的に失念されておられるのでしょう。明治憲法下では家長が結婚相手を決めるのが当然で、結婚・離婚において女性が圧倒的に不利な立場に置かれていたからこそ、婚姻が当事者の「合意のみ」に基づくこと、離婚を含む家族関係における男女平等の権利を24条が規定したのです。そして憲法24条の規定は参政権を得たばかりの当時の女性たちの圧倒的な支持を得たのです。

(2)根拠のない「24条=家族破壊」論

女性差別に関する歴史的事実を無視してGHQ陰謀説を主張する一方、前田氏は、自分は家長制度の復活を主張しているのではなく「良俗秩序は家族共同体が原点であると主張しているのだ」と言います。しかし前田氏のいう「良俗秩序」が何を指しているのか、それと24条との間にどんな論理的な関連があるのか、前田氏の理想とする「家族共同体」が家長制度とどのくらい違うものなのか、読む者は首をひねらずにいられません。
たとえば前田氏によれば、「不純行動にふける10代の少年少女」は「両性の合意」を口実にしているそうですが、24条が実際にそのようなかたちで広く使われている具体的根拠を示していただきたいものです(ところで「不純行動」とは何を意味しているのでしょう?)。また、「子を虐待死させる男女」の背景に「同居別居の繰り返し」があるという根拠は何か、それと24条に何の関係があるのかも、まったく説明されていません。

このように、「良俗秩序」崩壊の「根源は憲法24条の家族否定にある」という前田氏の主張は、女性が平等な権利を保障されてこなかった歴史についての認識を欠くだけでなく、きわめて保守的で不平等な家族観を背景にしています。「婚姻・家族における個人の尊厳と両性の平等」を規定する24条が否定しているのは、家族の中における不平等や暴力的な関係であって、当然、家族関係そのものではありません。それが男女平等や個人の尊厳を認めたくない前田氏には「親子の情愛まですべて否定し去る」と見えるのでしょう。
さらに問題なのは、このように粗雑で差別的な24条見直し論を「論説」として掲載する岩手日報のメディアとしての無責任さです。現在も介護や育児の負担が女性に重くかかり、女性、男性、子ども、若者、婚外子、障がい者、高齢者、性的マイノリティ、在日(滞日)外国人、など多くの人々が未だに個人の尊厳を十分に保障されていない現状を考えれば、このような一方的な論説を掲載することの無責任さは決して看過できません。ここに強く抗議します。

                             2006年6月17日

STOP!憲法24条改悪キャンペーン

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